私の「韓日、異文化交流」の原点

『キムチと味噌汁 韓日、異文化交流のススメ』 教育評論社

皆さまは「日本語学校」にどんなイメージをお持ちでしょうか。初めてイーストウエスト日本語学校にお見えになった方の感想はさまざまです。

「へえ、みんな真剣に勉強しているんだなあ」
「日本語の勉強だけかと思ったら、いろんな特別授業があるんですね!」
「日本人と話したいという人が、ほんとに多いんですね」

新聞やテレビが作り上げた負のイメージ。大学進学のための予備校的存在。こういった先入観は、留学生との交流であっと言う間に消え去ります。

私が「ワイワイガヤガヤ日本語学校」というコラムを始めたのも、皆さまに「少しでも日本語学校で学ぶ留学生の姿を知っていただきたい」という思いからで した。先週出版した『キムチと味噌汁—韓日、異文化交流のススメ』(教育評論社)も、コラムと同じ思いで書きました。この本を通して、日本で暮らす留学生 への関心が深まり、日本語学校を「多文化共生社会の要」と捉えていただけることを願っています。

先日お読みいただいた方から、こんなコメントを頂きました。

「私はこれまで日本語学校と云えば、就労が目的で修学は仮の姿の所といったイメージを持っていたのですが、ご本を読んでかくも熱心に日本語、日本文化を学ぼうとしている多くの人々がいる事を知って感動しました」

どうぞお気軽に手に取ってご覧ください。それでは「あとがき」に載せた1つのスピーチをご紹介させていただきます。ここに私の「韓日、異文化交流」の原点が記されています。

「言葉で学ぶ民族のこころ」

「先生、私の祖父は沖縄に連行された経験があります。そんな祖父は日本での辛い経験を、いつも私に話して聞かせました。だから、私は日本に勝ちたいと 思って日本語を専攻しました。勝つためには、まず相手の国を知らなければならないと考え、日本語を勉強することになったわけです」

韓国へ帰る前に、金哲洙さんはこう話しました。日本に強い関心を抱いていた彼が日本語を勉強するようになったきっかけが、そのような事だったとは夢にも思いませんでした。彼は又こうも言いました。

「日本に来て2年経ちましたが、日本が好きになれません。でも日本に対する考えは、来る前とは少し変わりました。とにかく、まず日本が変わるべきなんですよ。日本の歴史教育が変われば、韓日関係だってよくなるだろうと思いますよ」

私達日本人は、こういった韓国人の思いをどこまで理解しているのでしょうか。そう思いながら、私と韓国語との出会いを思い浮かべてみました。

私の韓国語学習の動機は単純でした。ある時私は1人の学生に注意されました。
「先生、私の名前は『リク タイセイ(陸泰星)』じゃなくて『ユク テソン』です。ちゃんと呼んでくださいよ。私は他の所でも、正しく呼ばれるまで絶対に返事しないことにしているんです」

「あ、そうなんだ!これからは彼等の名前を日本語読みではなく、原音で正確に発音しよう」そう考えて、私は韓国語の勉強を始めました。

私は詩が好きだったので、まず暇さえあれば、韓国語の詩を暗記し始めました。ある日公園を学生達と散策しながら私は、尹東柱の「序詩」と金素月の「つつじの花」をそっと口ずさみました。

「先生、韓国語分かるんですか?詩の意味も分かって、詠んでいるんですか?この詩は韓国の心ですよ」

その1ヶ月後、彼女から「尹東柱」の詩集をもらいました。その本にはこう書いてありました。『先生が韓国を理解なさる時に、少しでもお役に立てればいい のですが』私はこの詩集をきっかけにして、日帝支配の下で詩を作らなければならなかった尹東柱の人生、そして彼が生きた時代に対する関心が、少しずつ深 まっていきました。更に私は、日韓の歴史を単なる知識としてのみ知っていただけで、実は何も分かっていなかった自分に気付きました。例えば『創氏改名』と いう事は知っていても、その時の彼等の心情にまでは考えが至っていませんでした。族譜(チョッポ)を大切にする韓国人にとっては、名前を捨てさせられると いう事は、命を失うのと同じだったのです。『創氏改名』による彼等の大きな心の傷を、私はその時初めて知りました。それからというもの、私はもっともっと 彼等の名前を正確に読めるようになりたいと韓国語の勉強に励みました。

先ほどお話した金哲洙さんは、最後にこう言って帰っていきました。

「先生、不思議なんですけど、日本にいる時はいろいろ日本に反発ばかりしていたんですよ。だけど韓国に戻ると反対に、日本の事を何の彼のと騒ぎ立てる人を見ると、『何言ってるんだ。よく知らないくせに』って、いつも日本をかばう姿勢になるんですよ。」

私はその時こう考えました。
国と国との理解は、こうした1人ひとりの経験、出会い、そして腹を割って話をする姿勢が備わってこそ、より深められていくのではないだろうか。

死ぬ日まで空を仰ぎ
一点の恥ずる事なきを……
葉あいにそよぐ風にも
我が心は痛む

今日も私は序詩を口ずさみながら、韓国語の勉強に励んでいます。

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