「大先輩・達磨」に日本留学への夢託す台湾学生 台北のリンさん「自分のダルマ探し」の学生を励ます

 「達磨は、留学生の大先輩ですよ。だから、日本へ留学する台湾の若者にプレゼントしているんです。達磨の精神をずっと持ち続けてほしいと思って・・・・・・」

 数え切れないほどの「ダルマ」を前にして林(リン)俊宏さん(傑士達文化事業有限公司代表)は語り始めました。先週、台北にあるリンさんの事務所を訪ねた時のことでした。

ずらりと並んだダルマさん


 達磨と言えば、5世紀から6世紀にかけて中国で活躍した禅宗の達磨大師。私には「達磨は留学生」という言葉が最初はピンと来ませんでした。しかし、よく考えてみれば、南インドに生まれた達磨ですが、9年間嵩山少林寺で壁に向かってひたすら修行をし続けたのは中国でした。中国に渡り、壁に向かって座禅を続けること9年。ついに達磨の手足は腐ってしまったという伝説から、玩具としてのダルマが生まれたのです。

 「なるほど、リンさんの言うとおり、達磨は『留学生の大先輩』だ」と思いながら、リンさんの話に耳を傾けました。

 「達磨は生まれた地を離れ、中国に行って苦労に苦労を重ねました。でも、くじけなかった。まさに七転び八起きです。その達磨の精神と、日本人が作り出したダルマやダルマの文化を、日本留学のスタートラインに立っている若者に伝えたいと考えました」とリンさん。

ダルマの前でリンさん(左)と記念撮影


 リンさんが言う「日本人のダルマ文化」とは、受験や選挙の時に片目を黒く塗り、成功した暁にはもう1つの目を黒く塗るという習慣、そして日本全国でさまざまな「ダルマさん」が誕生し、人々に愛されていることを指しています。

 そこで、リンさんは、日本留学に行こうとしている台湾の若者に、必ずダルマをプレゼントしています。ダルマの背中に「日本留学の目標」を書いてもらい、片目を入れて事務所に飾っています。そして、目標を達成でき、報告に来た学生は、もう1つの目を墨で塗りつぶし、リンさんに日本留学のこと、これからの夢について話し始めます。それを聞いたリンさんは、今度はもう一回り大きなダルマをプレゼントして、「また次の目標に向かって」と送り出しているのだそうです。

 実は、ダルマをプレゼントするのは、「留学生の大先輩としての達磨」というだけではなく、「国際人としての達磨」から多くのことを学び、そして日本での留学を通して「自分のダルマを見つけてほしい」という思いからだとリンさんはさらに説明を続けました。

ダルマの背面には「留学の目標」が書かれている


 「日本に行けば、いろんなダルマがたくさんありますよね。日本に留学して、今の自分から生まれ変わってほしい。自分の、『自分だけのダルマ』を見つけてほしい。そんな願いを込めて、若者を日本へ送り出しています」

 リンさんがダルマのプレゼントを始めたのは2003年10月。玄関には所狭しと「留学に向かう台湾の若者」が置いていったダルマが並んでいます。台湾には日本のようなダルマはありません。これはすべてリンさんが群馬県高崎市からわざわざ取り寄せたダルマです。だからこそ、リンさんは留学前にダルマを通して「台湾と日本の文化の違い」を意識してほしいと思い、「ダルマのプレゼント」を続けているのです。

 リンさんの部屋に並ぶダルマはさまざまです。リンゴの形をした青森のダルマ、こけしの形をした山形のダルマ、キラキラした金色の金沢のダルマ・・・・・・。そういえば藤子不二雄の故郷、富山のダルマは、「ドラえもん」によく似ています。それは、ダルマの置物が並んでいるのを見て、「ドラえもん」のヒントが浮かんだという藤子不二雄の故郷ならではのダルマさんなのでしょう。私は、数々のダルマコレクションのきっかけをリンさんに尋ねてみました。

 「私がダルマを集めていると知った知人や友人が、いろんなダルマを贈ってくれたんです。ダルマのおかげで、私はたくさんの縁が出来、人の輪がどんどん広がっています。これからも、もっともっとダルマを集めて、素晴らしいネットワークを作っていきたいと思っています」

 筆者にとっては空気のような存在のダルマさんでしたが、台湾と日本との間で、こんなに「活躍」していたとは、思ってもみませんでした。さて、私はこれからどんな形で人の縁を紡ぎ、人の輪を広げていきましょうか? 1つ1つ個性溢れる「台北に暮らすダルマさん」を見ながら、「留学の持つ意味」について改めて考え始めました。

各地から集まってきたさまざまな形のダルマたち

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