留学生の落語鑑賞会

熱弁をふるう扇生さん

熱弁をふるう扇生さん

今日(1月27日)、「イーストウエスト日本語学校落語鑑賞会」がありました。桂扇生さんとの付き合いも十数年となりました。扇生さんはすっかり「留学生と日本人学生とでは笑うところが違うんですよ」と留学生が分かるように、スピード調整や語彙の言い換えなどをしてくれます。今年の演目は、「初天神」と「時そば」でした。

まずはたくさんの小噺が出てきました。小噺はいつも大人気ですが、特に猫の名前の小噺(「虎→龍→雲→風→壁→ねずみ→猫」)では、大声をあげて笑っていました。今回留学生に特に人気のあった小噺は以下の作品です。

「この天井雨漏りがするねえ。」
「や~~~ね。」

(携帯の待ちうけ画面)
「これ、カバですか」
「失礼ね。私の夫よ。」

「おまえ、何書いてるんだ?」
「兄貴に手紙書いてんだ。」
「お前、字が書けないじゃないか。」
「兄貴も読めないからだいじょうぶ。」

一方、言葉が分からなくて笑えない場面も多々ありました。「機密漏洩」「僧」と言う言葉を知らないためでしたが、あとで漢字を見て残念がることしきり。中国人には漢字を見ればすぐ分かるのですが、音で聞くと、何のことやらさっぱり・・・・・・。

「大統領は馬鹿だ!」
「お前を逮捕するぞ。」
「どうして?ただ「大統領は馬鹿だ」って言っただけだよ。」
「お前は、国家の機密を漏洩しただろう。」

「あ、お坊さんが通るよ。」
「あ、そう。」

今回とてもよかったのは、質疑応答の時間でした。さまざまな質問が出ましたが、その中でも次の質問と答えは留学生の胸に響きました。

着物の着方を教えている扇生さん

質問:落語家としての目標は何ですか。

師匠:昨日より今日、今日より明日って、少しでも良くなることですね。完成ということはありません。もっとよくなりたい。いつもそう思っています。いつも違います。それは、お客さんが違うから。落語はお客さんと一緒に作り上げていくものです。若いときは「有名になりたい。TVに出たい」と思ったこともありますが、今は、良い落語をやりたいという思いだけです。

最後に、留学生の感想文をいくつか抜粋してご紹介したいと思います。

①     ロシア・女性
今日聴いた落語はとても面白かった。落語というのは言語が何よりも大事だと先に聞いたことがあるけど、今日はそういうことを実感した。

ロシアの芝居は普通のヨーロッパの芝居と形が同じで、俳優がたくさん動いたりする。特に、お笑いの場合は俳優の動作とジェスチャーが極端になる。その不自然な動き方こそ面白いと思いがちの人もいるかもしれないけど、今日はそうでもないということが分かった。

落語家の表情も言語も余計にうるさくなく、単純であったということこそ感動的だったと思う。余計な動きと騒ぎがなくて微動でも強い印象を与えるということに気付いた。その落語のやり方は細かいことを大事にしている日本文化をよく表すと思う。

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②     韓国・女性
韓国にも昔から伝えている落語みたいなものがあるが、落語と同じ運命になっている。私も昔のものだといって、観たこともないのに偏見を持っているのではないかと反省した。昔から今まで続いていたことの価値をまた実感した。

今日見た落語家の実力で完全にほれた。日本人の若者にも機会を作れば、このようないい文化が続けると思う。その上、韓国の昔のものに対しても、接する努力が必要だと感じた。

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③     ロシア・男性
ロシアのお笑いのほうが、道具が違ったり、服を着替えたり、声を変えたりします。ロシアのお笑いのテーマは、だいたい現代の問題、政治、芸能人の皮肉です。落語は江戸時代の雰囲気がします。それは、日本の文化の一部です。落語に触れて楽しかったです。落語家は面白い人です。

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④台湾・男性
初天神は分かりやすくて、面白かった。父と子どもの会話は生き生きなので、まるで目の前にその父子がいるみたいです。時そばで、日本人のお世辞の習慣と今日テレビ番組の紹介する方法もやっとわかりました。桂扇生さんの演技は上手なので、そばの香りも感じられるようにすばらしいです。

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⑤香港・男性
今日落語鑑賞会に行ってよかったと私は思っている。どうしてかというと、落語についていろいろ勉強になったからだ。落語が「まくら」、「本文」、「おち」という三部構成ということとか、「扇子」、「手ぬぐい」が話の最中に使われている道具なのだということとか。それらは日本ならではのものに決まっている。しかも、着物の着方も教えてくれて、本当に感心した。

実は、私の出身地の香港にも、落語のような出演がある。いつも日本の笑い芸能人のような人たちが、そこここの会場で「棟篤笑(ドンドッショウ)」というものを演じている。形式も日本の落語と似ているが、「棟篤笑」の演じる人は立ったままでしている。私は聞きに行ったことはないが、おもしろいと言われている。もし機会があったら、ぜひ聞きに行ってみてください。

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