シンポジウム「活気ある社会づくりと日本語教育」を終えて

 日本語教育学会が6月26日に実施した「シンポジウム:活気ある社会づくりと日本語教育」は大盛況のうちに終了しました。参加者数は545人、日本語教育関係者だけではなく、幼稚園・小学校の先生、大学生、交流協会で活動している人々、会社員、報道関係者など実に多様な方々でした。

このシンポジウムは、日本語教育関係者だけで議論するのではなく、他分野・他領域の人々と一緒に、そして政財界も巻き込んで、「活気ある日本社会」をつくるにはどうしたらいいかを、オールジャパンで考えることを目指しました。

シンポジウムの内容については、日本語教育振興法法制化ワーキンググループのホームページに「開催報告」http://www.houseika2012.net/wordpress/?page_id=1550がありますので、そちらをぜひご覧ください。ここでは、参加してくださった方々との「その後の対話」を中心に報告します。

今回のシンポジウムの企画・運営は学会のワーキンググループですが、講師に多様な方々をお迎えしました。基調講演は劇作家・演出家の平田オリザ氏、パネルディスカッションは言語学者の大津由紀雄氏、文化人類学の陳天璽氏、経団連の井上洋氏の3名で行われました。さらに、政策展望では、民主党の中川正春議員と自由民主党の馳浩議員が登場、と実に多彩なメンバーによって多角的・多面的に議論が進められました。

特に、日本語教育について政治家が率直に意見を語る場面は少なく、参加した現場の日本語教師からは「これまで聞いたことのない話で、とても刺激になった」という意見から、「いい意見をいろいろ聞いたけれど、それを本当に実現させてほしい」という意見まで、さまざまな感想が寄せられました。
 
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〇これまで政策が必要というところにまで頭が行っていませんでした。もっと社会的なことに目を向けなくちゃいけ ないですよね。そのことがよ~~~く分かりました。
〇日本語教育がどういう位置づけになるのか、政治家との「対話」がもっと必要ですよね。
〇中川議員の「外国人が社会の底辺に張り付くような状況にならないように、システム作りが大切」という言葉が胸 に響きました。
〇そうですよね。日本語教育を進める「国の司令塔」が必要なんですね!
〇「国立日本語教育研究所」の設立が実現できるように、本気で頑張ってほしいですよね。

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これまでずっと「日本語教育の重要性がなかなか分かってもらえない」「日本語教師の待遇改善をもっと積極的にすべきだ」と言われ続けてきましたが、事態はそれほど好転しているとはいえません。それには以下のような理由があると思います。

1.日本語教育側からの発信が十分ではなかった
2.日本語教育と他分野・他領域との連携が十分ではなかった
3.「日本語教育は何をすべきか・何ができるのか」といった議論が十分ではなかった

しかし、ここ数年日本語教育学会の動きも変わってきましたし、一人ひとりの日本語教師の考え方・動きも違ってきました。「もっと社会とつながった日本語教育をしたい。もっと有機的な連携のもと仕事をしていきたい」といった思いが高まってきています。今が大きなチャンスです。そして、このシンポジウムをきっかけにして新たな動きが生まれつつあります。

そこで、まず進めるべきこととして、1.個々人、個々の機関・団体が連携して、知見・人財の共有化を図る、2.「日本人のコミュニケーション力向上」のために日本語教育が大いに貢献できるようなシステムを構築する、という2点があげられます。それを進めることで、「日本人にとっても、外国人にとっても住みやすい、活気ある日本社会」をつくることができるのだと思います。

そして、活気ある社会づくりを進める上で求められるのが「対話」です。平田氏は基調講演において「対話」について、次のような点をあげています。

・会話は親しい人同士のおしゃべり。対話は知らない人との情報の交換や、知っている人との異なる価値観のすり合 わせである。
・よって、会話は冗長率が低く、対話は高くなる。この点にこれまで教育の世界では関心が寄せられていない。
・大切なのは、冗長率が高い、低いということではなく、場面・状況によって「冗長率を操作する能力」である。

今回のシンポジウムは、日本語教育関係者だけではなく、広くさまざまな方々に参加していただいて日本語教育の意義、その重要性を知っていただくことが、目的の1つでした。やはり、実施後いろいろな意見・感想が届きました。

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〇これまで考えていなかった自分の母語、日本語に関心を持ち始めましたよ。
〇外国人の日本語教育、いろいろ課題があることを知りました。私にも何かできること、ありますかねえ。
〇いやあ、私たち中高年の男性のコミュニケーション力を考え直さにゃ、あかんですなあ。

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そして、シンポ実施前、私がワーキンググループの仲間に話した以下の「願い」は大いに実現されたことをお伝えして終わりと致します。

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 今、震災後日本語教育の世界、特に日本語学校の先生方は、不安に思ったり、悩んだり、戸惑ったりしているんです。だから、「ああ、シンポに来て良かった。この仕事に希望が持てた!」「これからも、みんなで課題を共有して、一緒に頑張りたい!」「へええ、日本語教育って、こんなに可能性があるんだ!」「やっぱりネットワークが大切なんだなあ。じゃあ、まずはどこから始めようか」と、前向きになって、明日の授業を迎えられるようなシンポにしましょうよ!!

 

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