地域社会を変えた日本語学習会の盆踊り大会 秋田県能代市で

イーストウエスト日本語学校の学生達の楽しみの1つは町内の盆踊り大会です。大会が近づくと、留学生たちは地域交流館「さくら館」で大勢の日本人に混 じって盆踊りの手ほどきを受けます。幼児からお年寄りまで、いろいろな世代の人々がさくら館に集まり、汗びっしょりになって夜遅くまで練習に励むのです。

今年も大勢の留学生が盆踊りの練習、そして大会に参加をし、日本人との触れ合いを楽しみました。「台湾にいる時、テレビで見たんですよ。一度踊りたかっ た!」「気楽に近所の人と話せるのが嬉しい!」と浴衣姿の留学生たちはワイワイガヤガヤ、実に楽しそうに時間を過ごしていました。

七夕祭りですっかり浴衣の魅力の虜になった韓国のKさんは、ユニクロで買った「マイ浴衣」持参です。そういえば、5年ほど前には近所の和裁の先生から手ほどきを受け、自分の浴衣を縫って帰国した韓国人留学生もいたことを懐かしく思い出しました。

さまざまな国から来た留学生と地域社会の人々が1つの輪になって踊り続ける姿は、「地域に根ざした日本語学校作り」をめざす私にとって、とても嬉しいひと時でもあります。

前の人を見ながら踊っている留学生たち

今夏私は、仕事で訪れた秋田県能代市でとてもユニークな「のしろ日本語学習会盆踊り大会」に出会いました(8月30日)。その盆踊り大会についてご紹介 したいと思います。最近は外国人を交えての盆踊り大会は日本全国アチコチで開かれるようになりましたが、この盆踊り大会はひと味もふた味も違う盆踊り大会 なのです。

町内会や商店街主催の盆踊りではなく、日本語学習会の先生方が「何とか外国人に日本の文化を知ってほしい。地域の人たちに外国人の姿を知ってほしい。そして互いに触れ合い、理解し合ってほしい」という思いからつくった盆踊り大会でした。

町がお膳立てした大会に定住外国人が招待されて参加する、といったものではありません。ボランティア日本語学習会が主催して町の人々を巻き込んでの大会であるという点に、この盆踊り大会の大きな意味があると言えます。

太鼓を叩いているのは小学生

とはいえ、こんな大きな盆踊り大会になるまでには、日本語学習会の方々の並々ならぬ努力がありました。日本語学習会代表の北川裕子さんは、こう語ってくれました。

「能代に定住する外国人達が日本の社会に溶け込んでほしい、日本文化を体で理解してほしいという思いで、盆踊り大会を始めました。はじめの頃は、町のは ずれの空き地でひっそりとやっていました。でも、常に地域社会や役所に働きかけを続けた結果、だんだん町の人たちも理解してくれるようになり、3年前に町 の真ん中のこんな立派なけやき公園でやれるようになりました。今年で12回目、これからもずっと続けていきたいと思っています」

大勢の外国人が浴衣を着て、実に楽しそうに踊っていました。中には私が調査研究で知り合った人たちもいます。2歳の娘さんと一緒に踊っている中国から来 たAさん、フィリピンから来たBさんは実にみごとな身のこなしで踊り続けています。昼間会話試験をした来日2年のロシア人Cさんもご主人と息子さんと一緒 に来ています。

「先生、私、盆踊り好きね。楽しい。いっぱい人がいるからホントに楽しい。能代の町あったかいから、私好き。ロシアにこんな祭りないです。ずっと能代にいたい。楽しいから」

盆踊りを見ながら談笑するお年寄り

ひとしきりみんなと一緒に踊りを愉しんだ私は踊りの輪を離れ、定住外国人の彼女たちや家族の人々とおしゃべりを始めました。「地域社会に溶け込み、仲間 と一緒にワイワイやっている妻の姿を見るのがホントに嬉しい」というご主人の言葉からは、母国を離れ日本で暮らす妻を思いやる温かい気持ちが伝わってきま した。

また、大勢の日本人のお年寄りが車椅子で参加し、輪になって踊る人々を眺めながら、仲間との会話を楽しんでいる姿がとても印象的でした。まさに年代を超 え、職業を超え、国を超え、みんな一つになって楽しむことができる盆踊り大会でした。北川さんは後片付けをしながら、会への思いをまた語り始めました。

「私は、外国人を見たこともないお年寄りにも参加してもらって、交流する場を持ちたいと思っていました。その人たちが日本語教室に来てくれるという可能 性はほとんどありません。でも、盆踊りだったら、比較的高齢者の方も見えるし、言葉もいらない。一緒に踊るだけ。お互いが理解し合えるようになると信じて いました。実際に、「あ、あの時の○○さん!」とお年寄りから外国人に声をかけてくれるようになってきています。少しずつでも発信していけば、地域社会も 変わっていくんですよ」

私も地域社会がお膳立てしたイベントに乗っかるだけではなく、時には留学生自身が企画運営をし、地域社会を巻き込んでいくような「何か」を考えたいと強く思いながら、大館能代空港を後にしました。

ヤグラの前で記念撮影をする留学生たち

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