「落語・らくご・RAKUGO」

日本の伝統的な話芸である落語を通して、日本語を学ぶ楽しさを知ってもらいたいという思いから、毎年1月になると落語家「桂扇生師匠」による「落語鑑賞会」を行います。今年の演目は「まんじゅうこわい」と「井戸の茶碗」。「まんじゅうこわい」はいつも大人気の演目です。今年は、ちょっと背伸びをして「井戸の茶碗」にも挑戦してみたのですが、やはりまだ日本語学習を始めて1年、1年半の留学生にはちょっと難しい面もありました。

「井戸の茶碗」には、裏長屋に住む千代田卜斎という浪人が出てきますが、留学生にはなかなか「浪人」「裏長屋」という言葉を聞いただけでは、イメージを膨らませることができなかったようです。しかし中には、よくストーリーが理解でき、「良い話ですねえ〜〜〜」と感想を述べ、次のように意見を言う学生もいました。

「『井戸の中の茶碗』というタイトルを変えたらどうですか。タイトルが表す意味は最後にならないと分かりませんから。私だったら、『正直すぎる人々』とか『馬鹿正直な人々』ってタイトルをつけてみますけど」。

扇生さんの落語

他にも、いろいろな面白い意見が飛び出しました。

○落語って面白いですね。言葉としぐさと、2個の道具、扇子と手ぬぐいで、いろんなことを表現するんですね。すばらしい日本文化だと思います。だから、 落語が日本の若い人に人気がなくなっているのは、すっごく残念です。何か工夫をして、落語を<RAKUGO>に変える努力をしたらいいと思うんですけど。

○『落語』じゃなくて、『楽語』って書いたら楽しいですね。もちろん『落語』は『落とし噺』からきているのは知ってますけど。こんなに楽しく日本文化に触れられるのって、いいですよね。

○一発芸にも言葉で笑わせるところがありますけど、落語はそれとはちょっと違うと思いました。一発芸はわざと笑わせるところがありますが、落語は言葉の意味やその言葉自体で純粋に日本語だけで人を笑わせる芸だと思いました。

○落語はただ人を笑わせるだけじゃなくて、ちゃんとストーリーがあって、その話の中にも教えてくれるメッセージがあるのがいいと思いました。難しかったですけど。

着物の着方実演

毎回、終わってから知人の扇生さんと一緒に食事をしながら、「今日の落語」の振り返りをします。こうして、次回のやり方、演目を考えていくのです。特 に、扇生さんが関心のあるのは、日本人学生と留学生との反応の違いです。いつも念入りに説明を加えるのが、和服についてです。実際に羽織を脱ぎ、長襦袢一 つになって、帯の結び方から見せてくれます。「着物は絹でできている」という師匠の言葉に留学生は「へええ!」っと驚き、「ユニクロでも安いのを売ってい ます」という言葉を聞いて、大きな笑いが起きました。自分達に身近な「ユニクロ」で着物を売っているということに、意外性を感じたようです。扇生さんは、 留学生が身を乗り出して「着物の話」を聞いている姿に、留学生ならではの熱意を感じます。

次の小噺は、留学生に大いに受けたモノですが、やはり日本人学生とは半テンポ反応がずれてしまいます。

おい、ねずみ捕まえたよ。おい、大きいだろ!
なに、小さいよ。
大きいよ。
小さいよ。
大きいよ。
小さいよ。
(中でねずみがチュウ)

「ねずみの鳴き声=チュウチュウ」と「大中小のチュウ」を結びつけるのに、ほんのちょっと余計に時間が掛かりましたが、あとは大爆笑。

この天井漏るね。
や〜ね。

留学生には、「いやですね=や〜ね」という砕けた言葉は、あまり使うことがありません。「雨漏りで屋根が……」というところにもすぐには結びつかなかったようです。

向こうの空き地に囲いができたよ。
へええ。

これは、もっと難しくなりました。そもそもフェンスの日本語として「囲い」「塀」があることがぴんと来ていないのです。こんな小噺をたくさん聞いた留学 生達は、「もっと言葉をどんどん覚えて、自分達も言葉遊びをしたい」と学習意欲が高まってきたようです。これが、落語を学ぶ大きな副産物なのです。

楽しそうな留学生たち

最後に学生達の言葉を、もう一度お伝えして終わりにしたいと思います。因みに次回の「落語鑑賞会」の演目は、「ぜんざい公社」と「初天神」。皆さんはどんな演目をお薦めくださいますか。

○落語は面白いだけじゃなくて、奥深いとさらに認識しました。言葉と仕草で生々しいドラマを表現するのがすごくて、やっぱり実力の世界ですね。

○韓国では落語というもの自体がないので、新鮮な経験でした。「言葉あそび」というもののおもしろさをまんきつできました!!

○ぜひ落語を残していってほしいです。落語が長続きするためには、落語の形を残して、最近の若者の流行を研究して、若者でも見たくなる芸能に変えてみるのはどうかな、と思います。そうすると、落語家を目指す人も増えると思います。

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