留学生にも作家の出張授業を

「詩は、読む人が主人公。ここにある21篇の詩を読んで、『今日の、今の感じ』で一番好きなものを選んでください」

大勢の聴衆を前に、詩人工藤直子さんの国語の模擬授業が始まりました。

これは、5月30日に朝日新聞が主催した「オーサー・ビジット ガイダンス・セミナー」での1コマです。詩人の工藤直子さんと児童文学作家の杉山亮さん を講師に迎え、「架空の小学校での授業」という設定でガイダンス・セミナーは行われました。1時間目は国語、2時間目は算数、そして3時間目はお2人によ る「トークセッション」です。生徒役は、聴衆(殆どが教師、母親等)から選ばれた24名が務めました。

「オーサー・ビジット」とは、2003年に朝日新聞が始めたもので、今年度は5回目となります。訪問校募集案内には、以下のように書かれています。

「人気の本の作者による出張授業「オーサー・ビジット2007」が今年度も秋から始まります。小中高校のクラスまたは委員会などを対象に、授業希望を募集中です」

訪問時期は、2007年9月〜2008年2月で、最大で40人程度のものという条件があります。初等中等教育機関での講演会はアチコチで開かれていますが、このオーサー・ビジットは、1つのクラスで少人数の触れ合いを大切にした「授業形式」であることが大きな特徴です。

次に2時間目の算数の授業をご紹介しましょう。杉山さんによる「推理問題ひとりぼっちのMr.8」を壇上の「生徒」と会場の参加者全員で解いていきまし た。今の学校にこんな「考える授業」がもっと多ければ、日本人の論理的思考力ももっと深まるのではないだろうかと思いながら楽しく参加しました。杉山さん は「今の学校ではどうやって解くかは教えるけれど、解きたいと思う算数を教えないんですよね。それが問題です」と締めくくられました。

充実したガイダンスセミナーでしたが、私がこれに参加したのには、授業を見たいということ以外に、もう1つ大きな理由がありました。

実は、募集案内には「日本語学校」という言葉はどこにも見られません。「果たして応募資格はあるのだろうか」と迷いながら、昨年度イーストウエスト日本 語学校の上級クラスも応募してみたのです。結果はみごと落選。その理由は日本語学校の留学生だったからなのか、色紙に書いたメッセージにインパクトがな かったのか、定かではありません。そこで、セミナーに参加し、担当者に確認したいという思いがあったのです。

2006年度上級クラスが出した「オーサーへのメッセージ」です

昨年、申し込みの段階で「資格の有無」について問い合わせをしなかったのは、かつて次のような経験をしたことによります。

もう何年も前のこと、NIE(Newspaper in Education「教育に新聞を」=学校等で新聞を教材にする学習活動)に関心を抱き、プレスセンターまで出掛けていったことがあります。

・この活動に日本語学校もぜひ視野に入れてほしい。
・日本語学校は新聞記事を日常的に使って授業を進めている現状を知ってほしい。
・留学生の視点も入れたNIE運動をしてはどうか。

いろいろお話ししたのですが、全く関心を示してもらえませんでした。まるで「日本語学校って何をする所?」という態度で応対され、ある空しさを感じたことを今でも鮮明に覚えています。

オーサー・ビジット担当者は私の質問に「大丈夫です。日本語学校の学生さんもどうぞ応募なさってください」と明快に答えてくれました。これで安心して又 今年度も心を込めて「メッセージ作り」を始めることができます。「NIE訪問」の時とは時代が大きく変ってきているのでしょうか。

最後の3時間目のトークショーで工藤さんは「オモロイ大人が、子供に出会うことの意義」「いろいろなタイプ、気質が交じり合っている『雑木林』の素晴ら しさ」について語られました。だからこそ、私は日本語学校から発信したいのです。日本社会で行われる活動において、もっともっと「留学生の視点」「在日外 国人の存在」を意識すべきだと思います。それは、マイノリティである外国人のためではなく、むしろ日本人のためなのです。

わたしと小鳥と鈴と   金子みすゞ

わたしが両手を広げても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地べたをはやくは走れない。

わたしがからだを揺すっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴るすずはわたしのように
たくさんな歌は知らないよ。

すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがってみんないい。

異質なモノとの触れ合いで、自分自身がよく見え始め、軸が定まってきます。そして、そのぶれない軸で異質なモノとさらに触れ合っていくことで、人は学び、成長していくのではないでしょうか。

カテゴリー: ワイワイガヤガヤ日本語学校 パーマリンク