小中学校の新しい教科「日本語」に期待

教育特区の東京都世田谷区で今年4月から新しい教科として「日本語」が始まりました。世田谷区では、2004年に特区事業として「美しい日本語特区認定」を総務省から受けましたが、その延長線上に今回の教科「日本語」の開始があります。

教育指導課によると、教科「日本語」のねらいは次のようなものとされています。

1.深く物事を考える児童・生徒を育成する。
2.自分の考えを表現する力や、他人とのコミュニケーション能力を育てる。
3.日本の文化や伝統への理解を深め、それらを大切にする態度を養う。

これまで日本の小中学校おいて、「考える教育」「コミュニケーション教育」という観点が薄かったことへの反省があちこちで起こっています。実は、外国人 に日本語を教える日本語学校では、ずっと以前から「自己表現」「他者と伝え合うこと」を重視した教育を行っているのです。「考える教育」「コミュニケー ション教育」は、まさに日本語学校における教育そのものです。もちろん日本語能力試験や大学受験のため、詰め込み教育をやっている教育機関がないわけでは ありません。しかし、知識偏重に陥ることなく、「言葉は文化」という視点から授業を行っているのが、日本語学校です。

最初にあげられている「深く物事を考えること」は、「批判的思考(クリティカル・シンキング)から生まれます。日本語では「批判」は、あれこれ悪い点を あげつらうことのように考えられていますが、そうではなく物事を精査し、評価・判定することを意味します。「当たり前」と思っていることを、また違った視 点から見つめ直し、批判的に物事を見ることが大切です。さまざまな国・地域から集まってきた留学生たちが学ぶ日本語学校は、まさに異なる価値観の宝庫であ り、そこではこれまで「自明のこと」と思ってきたことそのものを問い直すことが常に求められています。

2番目に挙げられている表現力や他者とのコミュニケーション能力は、日本人が苦手とすることの一つです。「伝える」のではなく「伝え合う」という視点が大切です。ちょっと皆さんも次の5つの点について、ご自分の日本語運用能力を振り返ってみてください。

○簡潔・的確・平明に自分の言いたいことを表現する能力
○場や人間関係に対して適切な語彙や表現を使う能力
○相手から目的に応じた情報を聞き出す能力
○相手が伝えたいことを正しく聞き取る能力
○相手の発話に対して的確に応じて表現する能力

私は、常日頃日本語教師に対して「留学生のコミュニケーション能力のことをアレコレ言う前に、まずは自分自身の運用能力の実態を知ることが大切だ」と言っています。

3番目の日本文化を学ぶ際に忘れてならないのが、歌舞伎、能、相撲といった伝統文化だけではなく、その背後にある「日本人の物の考え方」を知ることの重 要性です。外国人が日本語や日本文化を学ぶ目的は、日本を理解するためだけではありません。むしろ、自文化と異なる文化を学ぶことで、自文化をよりよく理 解し、またその文化を支えている存在としての自分自身をよりよく見つめることにつながります。

因みにアメリカでは、上図のような「文化の三角形」を重視した教育を行っています。例えば、日本の家には玄関(Product)があり、日本人は玄関で 靴を脱いであがるという習慣(Practice)があります。それは、日本人にはウチとソトを分けるという考え方(Perspective)があるからな のです。目に見えるもの、伝統芸術だけに注目するのではなく、その背後にある日本人の物の見方、考え方までを含めた文化の学びが重要です。

今後多くの小中学校において、「日本語」という教科の中で「自己表現力」「自己理解力」「他者を理解し伝え合う力」を身につける教育が行われることを願っています。

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