大きな「海亀」をめざす中国人留学生

 「先生、今中国では『亀派』っていう言葉が流行っています。私もいつか『亀派』になりたいんですよ」

 4年前に卒業したTさんは、日本の会社に就職できたことを知らせに、イーストウエスト日本語学校にやって来ました。

 「亀派」(海外帰国組)とは、海外生活を経験した人々のことを言います。それは「海帰」の発音【hai gui=ハイ グェイ】と「海亀」の発音が似ていることから来ています。中国を出て海外に出ていき、そこでさまざまな体験をして、また中国に戻ってくる人々のことを指しています。そういった「亀派」の影響で、多くの人々が中国に居ながらにして国際的な視点を持つことが出来、中国は少しずつ変わってきているのだとTさんは語ってくれました。

 「いつかは中国に帰って、中日の架け橋になりたい!」というTさんは、大学卒業後すぐに帰国せずに、4月からは日本の会社で働き始めます。それは、大学で学んだ「知識」を日本の社会で働きながら「知恵」に変えたいと考えたからなのです。そして、Tさんの夢は、豊かな経験を積んで立派な「海亀」になって母国に戻ることでした。

 これまでTさんはいろいろなアルバイトを経験してきました。居酒屋、カメラ販売、ホテルの掃除、テレビ局でのアシスタント・・・・・・。そこでの体験も貴重なものでしたが、日本でサラリーマンとして働くことで得られる体験は、また違ったものであり、得るものも多いだろうと考えました。

 そんなTさんは、日本のマスコミに対して次のように批判しました。

 「重慶のサッカー大会の時の事件も、激しく石を投げたり抵抗している前列の人だけをクローズアップして映しているんですよ。その後ろの人達は、みんなただ笑いながら歩いているだけなのに……。反日感情を持っていない人も結構いるんですよ。もっと自分の目で見て、自分の足で歩いて、中日関係を考えなくてはいけないと思います」

 そして、同時に中国社会も批判的に見ています。批判的とは、あれこれ悪い所をあげつらうことではありません。さまざまな角度から検討し、本来あるべき姿を論じることなのです。6年前に黒龍江省から来日して以来1度も帰国することなく頑張ってきたTさんは、就職を前にして初めて故郷に一時帰国しました。そして、そこで見た中国社会の姿に驚きました。

 「焼き鳥食べて、串を捨てようと思っても、ゴミ箱が全然ないんですよ。みんな当たり前のように道に『ポイ捨』してるんです。それに、どこでも構わずつばを吐くし・・・・・・。電車に乗る時も大変。きちんと列を作って並ばないで、我先に乗車してしまいます」

 もちろん中国と言っても、地方・場所によってその姿はさまざまです。その点は、十分に考えなければなりませんが、このようなことがあるのも事実です。6年日本社会で暮らしてきたTさんは、日本の良さを中国社会に伝えていきたい思いでいっぱいです。そして同時に中国という母国、中国人を日本の人たちにしっかり理解してほしいと願っています。

 「亀派の人が増えれば、中国の社会はもっと良くなります。僕は、大人になるまで自分を育ててくれた中国を愛しています。恩返ししたいんです。だからもっと良くなってほしい。そのために日本社会で働いて、日本での起業を夢見ています。将来は中国にも子会社を作って、中国人の雇用機会を増やしたいですね。中国では発展している面だけが強調されていますが、実は失業問題も大きな問題なんですよ。それに、教育体制も良くしたいんです」

 Tさんが大きな立派な「海亀」になって中国に帰る日はいつのことでしょう。

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