中学生インタビューアー、タイ留学生に聞く

タイの7人組

 「すみません。授業でタイの農業についてレポートを書きたいんですけど、留学生の人に話を聞かせてもらえませんか。よろしくお願いします」

 ある日突然中学2年生から電話が来ました。2つ返事でOKした私の頭には、タイの7人組のことがありました。実は、昨年10月から、ODOS(One District, One Scholarship Program)で入学してきたタイ人国費留学生が7人、当校で日本語を勉強しているのです。ODOSは、次のような趣旨でタイで始められました。

 地方在住の学生に高等教育を受ける機会を与え、地域社会に貢献する人材を育成する。全員が日本国内の大学・短期大学・専門学校に進学する。

 地方都市出身の彼らは、自分達の力で出身地を豊かで住みやすい町にしたいと、みな希望に燃えて日本で勉強を続けています。今年はいよいよ日本の大学入学試験に挑戦です。そんな彼らには、中学生のK君はすてきな「日本人のお客さま」でした。

 日本語の授業が終わった5時すぎ、静かになった教室の片隅でK君とタイの7人組との話し合いが始まりました。積極的なK君も、大勢のタイ人留学生を前にしてさすがに緊張気味。全員どうして良いか分からず、モジモジとして数分が経ちました。

 「あのう、タイも日本と同じお米を作る国なので、ぜひタイについて調べたいと思ったんです」とK君は話を切り出しました。「世界中のどこの国でもいいから、1つ選んで何か調べてまとめる」という宿題を与えられたK君はタイを選び、近所のイーストウエスト日本語学校に1人で出かけてみようと思い立ったのです。

 「タイはお米を食べるけれど、1日にどれぐらいご飯を食べるんですか」
 「タイのお米の作り方の特徴って、何ですか」
 「タイ米でも地方によって種類が違うんですか」
 「灌漑設備はどうなっていますか」

 K君はいろいろな質問をしますが、まだ来日後4ヶ月しか経っていない7人組にはなかなか理解するには難しい面があります。タイ語で相談をし、絵を使い、辞書を使って会話が進みます。次第に、意思疎通がスムーズになり、話し合いに拍車がかかってきました。その結果、K君はいろいろなことに驚いたり、感心したり、多くのことを学ぶことができました。

 ・タイでは水牛を使って稲作をしている農家があること
 ・お米を収穫したあと、わらをいろいろなことに利用していること
 ・東北地方と中央部ではお米の種類が違うこと

 たくさんの情報の中でも、「雨が降らないと『人工降雨』もあるんです。それは、ぜんぶ王様のおかげです。王様が技術を開発してくださるから」という発言に、K君はびっくりしながらも、納得していました。

 話し合いは30分の予定でしたが、あっという間に1時間半が過ぎてしまいました。名残惜しそうに別れの挨拶を告げながら、7人組の1人がK君にこう言いました。

 「えらいですね。わたしなら、そんな宿題が出たら、インターネットで調べて終わりにしちゃいます。ほんとにまじめですね」

 たしかに、今の若者の間には、インターネットで検索して簡単にレポートをまとめてしまう風潮があります。K君の中学校では、レポートの課題が多いのですが、みんな熱心に取り組んでいるそうです。そして、中学2年生の今のテーマはアジア。K君は、次はどんな課題を見つけてイーストウエストを訪問してくれるのでしょう。

 タイの7人組は「自分の国、タイのこと」を話そうと1時間半一生懸命努力し続けました。それは、教室での授業では味わうことのできない、とても貴重な体験でした。必要な情報や自分の意見を日本語で伝えることの難しさを経験するとともに、その楽しさを実感できた「日本人中学生との楽しく有意義なひと時」でした。

 K君、また訪ねてきてくださいね。みんなで待っています!

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