ビデオ作品『ココロをつなぐ教室』 日本語教室追った能代高校放送部の奮闘

秋田県にある能代高校の放送部では、昨年から今年にかけて、「のしろ日本語学習会」の1年を追い続けました。それは、「自分たちの町にある外国人が日本語を学んでいる『のしろ日本語学習会』ってどんな所なんだろう?」という素朴な疑問からの出発でした。何しろ高校生は大忙しの毎日、「ちょっと取材させてもらって、NHKのコンクールに出すビデオを作ろう」と考えていたのですが、彼らが思ったように事は運びませんでした。撮影許可を求めにいった高校生たちに、コーディネーターの北川裕子さんはこんな条件をつけたのです。

「みんなが『のしろ日本語学習会』に興味を持ってくれるのはほんとに嬉しい。だけどちょっと来て、ビデオを撮って、それでまとめて作品にするなんてことは止めてほしい。それだったら、協力はしない。もし本当にこの教室を取材したいんだったら、1年間ずっと追い続けてほしい。この会の中に入って、一緒に活動しながら撮っていくなら大歓迎」

彼らの気持ちは決まりました。「よし、せっかくのチャンス。能代に暮らす外国人と一緒に触れ合いながら、ビデオを撮っていこう。それでこそ、私たちが作りたい作品ができるんだ。私たちのメッセージが伝えられるようなビデオを作ろう」

子どもたちの学習支援をする高校生(教室で)

そう考えた高校生たちは、北川さんや定住外国人たちの姿を追い続けました。春はお花見、バス旅行、夏には地域の人々と一緒になって踊る盆踊り、お茶会や節分、そして忘年会、年中行事は数え上げたらきりがありません。それだけではなく、毎週火曜日の夜には「能代中央公民館」での日本語学習に参加して、みんなと一緒に日本語サポートをしていきました。

子どもたちの学習支援をする高校生(教室で)

彼らが取ったビデオはなんと全部で16本。それをNHKに出す作品として8分にまとめあげました。

○どうやって自分たちが感じたことを伝えればいいんだろう
○この教室の雰囲気をどうしたら見ている人に伝えられるだろう

こうして自分自身の視点を定め、作り上げていったビデオは、今年6月に行われた「NHK全国高校放送コンクール・ドキュメンタリー部門」で秋田県の最優秀賞作品に選ばれたのです。

「言葉を伝えるということは、一人の人間として理解し、付き合っていくことだと分かりました。それは、この教室を通して出会った人たちと、北川先生の熱い思いを知ったことからです」と彼らはビデオの中で語っています。1,200時間の収録ビデオの裏にある「千時間以上の共有体験」の中から、議論を重ねて選び出した「8分ビデオ」だったからこそ、見る人々の胸を打ったのではないでしょうか。

外国人のための日本語教室は、日本に暮らす外国人のためだけにあるのではありません。それは日本人にとっての貴重な学びの場でもあるのです。高校生たちは「のしろ日本語学習会は、国際交流の場というより、人間交流、人間理解の場」という北川さんの言葉に深くうなづきながら、「北川さんが教えてくれた人間交流は、私たちのココロをつないでくれました。これからもこの輪を広げてくれるでしょう」という言葉でビデオを終えています。

16,7歳という多感な時代に、さまざまな人と出会い、触れ合い、語り合ったことは、これからの彼らの人生にどれほど多くの影響を与えたことか知れません。ビデオのレンズの向こうに写る人間交流の図、その図に自らが入って人間理解を深めていった多くの時間。これはどんな書物による学びにも換えることのできない貴重な体験だったことでしょう。

マリアさんとゲームをする高校生(ビデオから)

参加した高校生の「生の声」が聞きたいと「感想文」をお願いしたところ、大学受験を控えた忙しい時期にメンバー全員が感想文を寄せてくれました。その中から4編の「感想文」をご紹介したいと思います。

(1)【1年間の取材を8分のビデオに:N・Iさん】
私は編集も担当しましたが、一番苦労したのはテーマ決めです。この教室で過ごした1年間は、本当に充実していて、番組で使いたいネタがとても多く、テーマを決め番組構成が出来上がるまで何ヶ月もかかりました。私は北川先生がインタビューで言っていた「人間交流」という言葉がずっと心に残っていました。そして、この言葉をメインに、教室に通う外国人は、特別な存在ではなく同じ町で暮らす仲間なのだ、ということを伝えられる番組作りを目指しました。題名の『ココロをつなぐ教室』も、教室の暖かさが伝わるように何日も悩みました。

とにかく莫大な量の映像をたった8分に縮めるため、何日も繰り返してテープを見ました。北川先生のインタビューは、時間の都合でたくさん切りましたが、本当は全部使いたかったです。締め切り前日の夜遅くまで、決して妥協しないよう皆で心を決めて作りました。この1年間と、16本のテープと番組は宝物です。

(2)【「のしろ日本語学習会」は私たちの誇り:R・Kさん】
のしろ日本語学習会の扉を開くと、ふだん目にしない光景があります。小さい子からお年寄りの方々、日本人や外国人が机や黒板に向かい、熱心に勉強しているのです。
私はこの教室に参加して初めて、自分の地域に外国人の人が多く住んでいることを知りました。そして言葉の壁や文化の違いにとまどう彼らを、縁の下の力持ちとして支える北川先生の熱い思いを知りました。
外国人の母親を持つ子ども達の教育の場として、様々な面を持つこの教室は、北川先生はじめ地域の人達によって今日も守られています。私はこの学習会が能代にあることを誇りに思っています。過疎化が進み、かつて栄えた姿を失いつつある私たちの地域に、全国に胸を張って自慢できるものが、のしろ日本語学習会です。

この学習会を通して、本当にたくさんのことを学ばせていただきました。北川先生初め学習会の方々、顧問の先生、そして部活の仲間みんなに感謝したいです。

(3)【子ども達に対する日本語支援:E・Kさん】
仲の良い放送部員に誘われて手伝いをするようになった日本語教室。私たち高校生は取材の傍ら子ども達の勉強を補助することを任されましたが、私は主に撮影をするために日本語教室に通っていました。初めは撮影ばかりしていた私ですが、北川先生の「会話ができるから分かりにくいけど、子ども達は何となく日本語ができてしまっている」という言葉を聞いてからは、私も子ども達と直に触れ合わないと、と思うようになりました。そして、触れ合って初めて、先生のおっしゃっていたことを実感しました。子ども達は、特に国語の問題に関して、その問いかけの文章さえも読み取れないことがあったのです。

現在の日本で生活していくには、会話能力よりも筆記能力の方が重視されています。秋田県のような田舎でも快適に暮らせるように、しっかりとした教育をできる機関を設置していくべきだと思いました。

(4)【言語は生活の基盤:A・Kさん】
ボランティアは小学生に勉強を教えることが中心でした。初めはただ聞かれたことを答えるだけでしたが、北川先生へのインタビューを通して考えさせられることがありました。それは、この教室には子ども達の人生がかかっている、という責任の重大さでした。子ども達は、母親が日本語をしゃべられないことから、どうしても日本語に触れる機会は少なくなってしまいます。言葉は生活の基盤です。自分の伝えたいことが伝えられない、うまく伝わらないことによって人間関係を作ることがうまくいかなかったり、勉強に遅れができたりします。こうした状況を助けるために私たちが教室に関わっているのだと思うと、自分の役割がどれだけ人の人生に影響を与えるかということに驚くと同時に、その人の将来を考えて教えなくてはならないんだと分かりました。そして、人と人とのつながりを感じ、日本人と外国人としてではなく、人と人としての交流を大切にしたいと思いました。

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