留学生、「ボランティアサンタ」で地域の子どもたちに夢を!

 イーストウエスト日本語学校のご近所にある城山ふれあいの家(通称「さくら館」)では、毎年クリスマスイブに<お兄さんお姉さんサンタがやってくる>という催しがあります。これは、「各家庭から預かった子どもさん宛てのクリスマス・プレゼントをサンタさんが届ける」という企画です。事前に希望する親御さんからプレゼントを預かり、サンタに扮した大人・中学生・留学生たちが一軒一軒回って配っていくのです。

 今年は韓国、台湾、カナダからの留学生6人を含む20人のサンタさんで実施されました。留学生の中には、イーストウエストのホームページで先輩たちが行った「ボランティアサンタ」を見て、「よ〜し!入学したらぜったいサンタになろう!」と来日前から参加を決めていた人もいます。なにしろこんなユニークで愉しい企画はなかなかありません。

 「サンタの服装をするってどういう感じなんだろう?」と韓国から来た留学生の林宙姫(イム・ジュヒ)さんはどきどきしながら、さくら館に向かいました。これまではプレゼントをもらう立場だったイムさんですが、今年はプレゼントを配る側に回ります。「子どもたちの反応」を想像しながら、さくら館に着きました。

 「みなさん、いいですか。まずは『サンタのこころえ』をお話しします。よ〜〜く聞いてくださいね」と職員の藤ノ木さんの説明が始まりました。「サンタはソリに乗ってきますよね。だから、車には十分に気をつけてくださいよ。サンタが車にぶつかったら、おかしいでしょう」という説明に、20人の参加者は大爆笑。笑いの渦の中で、着々と準備が行われました。

「サンタのこころえ」を聞く留学生サンタ(撮影すべて筆者)


 ご参考までに、「サンタのこころえ」をここに記しておきます。

さくら館:サンタのこころえ

1.あなたはサンタです。正々堂々と行きましょう。
2.お届け先についたら「メリークリスマス!」と言いましょう。
 (また道行く人にも言ってみない?)
3.お届け先のメッセージをかなえてあげましょう。
  (メッセージ以外にもオリジナルな芸やあいさつもOKです)
4.お届け先の方に失礼のないようにしましょう。
5.行き帰りのとき、車などには十分気をつけましょう。
6.困ったときは必ずさくら館に電話をしましょう。

さくら館の人に手順を聞く留学生サンタ


 そういえばこんな注意もありました。「みなさん、トイレは今のうちに行っておいてください。サンタの姿でお手洗いから出てきたら、さくら館で遊んでいる子どもたちはびっくりしますよ。ばれちゃいますよね」

 さて、いよいよサンタのお出かけです。イムさんが1軒目のお宅に着いたとたん、「わあっ、サンタさんだ!」子どもたちから歓声が沸き起こりました。実は、このお宅では20人ほどの子どもたちが集まって、クリスマス・パーティーをやっていたのです。そこに5人のサンタさんがやってきたのですから、大騒ぎ。5人一組のサンタチームには、イーストウエスト日本語学校に通う2人の留学生も混じっています。彼らは子どもたちの声に一瞬驚きましたが、あとはニコニコとすてきな笑顔でサンタになりきっていました。

 プレゼントには子どもたちの名前が書いてあり、渡すとみんな大喜び。「わあ〜、サンタさんが僕にプレゼント。なんだろう?」と夢中になって一斉にプレゼントをあけ始めました。イムさんはその時の様子を次のように語ってくれました。
 「あんなに、ワイワイ私たちサンタに夢中だったのに、もう見向きもしないで、みんな必死にプレゼントをあけ始めました。ちょっとさびしかったけど、かわいかったですよ。それから、みんなでサンタに歌を歌ってくれました」

 1軒目のお宅を出たあとは、イムさんも余裕しゃくしゃくのサンタさん。道行く人に「メリークリスマス!」と大きな声で呼びかけて歩きました。すると、いろんな人がにっこりとほほえみながら、「メリークリスマス!」と言葉を返してくれたり、自転車を降りて話しかけたり・・・・・・。その時のことをイムさんは次のように話してくれました。「何だか自分がずっと前からこの町に住んでいるような気がしました。まだ日本に来て1年も経たないなんてとても思えませんでした」

 3軒目のお宅でのことです。ドアを開けるとお父さんがサンタさんにそっと1枚の紙を渡しました。実は、その家のお父さんはちょうどその時病気だったのです。メモを見た5人のサンタさんは声をそろえて、「パパに優しくしてくださいね」と女の子に語りかけました。小さな女の子が「うん、うん、分かった」とうなずく姿をお父さんはほんとうに嬉しそうに眺めていました。イムさんは何だかこころの中が温かくなるのを感じるとともに、韓国に居る家族のことがとても懐かしく思い出されました。

 2時間かけて回ったボランティアサンタが終わったあとは、さくら館で「打ち上げパーティー」です。留学生たちは大勢の日本人と一緒にお菓子をつまみ、ジュースを飲みながら、ワイワイガヤガヤ楽しいひと時を過ごしました。イムさんは感想を次のように語ってくれました。
 「本当に良い思い出になりました。いろんな日本の人と出会えたし、いろんな家を回ったし・・・・・・。本当に良い経験でした。最初はサンタの姿が恥ずかしくて中学生と一緒に下を向いて道を歩いていましたが、ドンドン勇気が出てきたんです。そして、『メリークリスマス』っていうのが楽しくなってきたんですよ」

 今、イムさんはさくら館で津軽三味線をお稽古しています。韓国にいる時テレビで三味線を見た彼女は「たった3本の弦でなんてきれいな音が出るんだろう。弾きながら歌を歌うなんてすごい!」とすっかり三味線のとりこになってしまいました。その思いが今叶ったイムさんは、今度は韓国に帰っても三味線の魅力を広めたいと、小井手先生の演奏をDVDに撮り、録音しているのだそうです。

 日本人と外国人とで作る多文化共生社会という掛け声があちこちで聞かれます。そのための交流活動もいろいろ行われています。しかし、その多くが単発的な活動であったり、お膳立てされた交流だったりします。大切なことは、身近な所で、ともに考え、話し合い、ともに作り上げていく活動を継続的に行っていくことではないでしょうか。地域社会に根ざした「人と人との関わり」をもっともっと深めていきたいと思っています。

サンタの格好で記念撮影

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