「日本語教育振興協会20周年」問われる日本語学校の未来 教師の努力に大きく依存する日本語教育のあり方見直すべきとき

「ワイワイガヤガヤ日本語学校」というコラムを始めたのは、「世の中の人々に日本語学校という存在を知ってほしい。そこで学ぶ留学生・就学生の真の姿を 知ってほしい」という思いからでした。その日本語学校を束ねる「日本語教育振興協会(以下、日振協と略します)」の創立20周年を祝うパーティが、7月3 日に東京・代々木のオリンピックセンターで行なわれました。日振協を軸にして一丸となって日本語教育の質の向上のために力を出し合ってきた日本語教師に とっては、感慨無量のひと時でした。

では、いったい日振協とは、どういう団体なのか、まずはその説明からしていきたいと思います。
日振協の設置目的は、「我が国における日本語教育機関の質的向上を図るため、必要な事業を実施し、もって外国人に対する日本語教育の振興に資すること」 と記されています。つまり、それまでバラバラに存在した日本語学校を整備し、質の向上を図るために教員資格の基準見直しや学校設置の審査・認定などを行な う機関として誕生したのです。

「日本人なら誰でも日本語を教えることができる」と思われていた時代が長く続きました。今でも時には、「えっ? 日本人が日本語を教えるのに、なんでそ のための勉強が要るんですか?」と真顔で質問されることがあります。母語である日本語を客観的に見つめ、分析することができなければ、日本語を教えること は出来ません。もちろん日本語教育では、「教師が知識を教え込む」のではなく、コミュニケーション能力を重視した授業が多く行なわれています。教師が学習 者が持っているものを引き出し、さらに教師と学習者が学び合うといった授業です。しかし、だからこそ日本語教師は留学生達が学ぼうとしている日本語を、 しっかりと把握していることが大切なのです。

現在、日本語学校関連のデータは以下のとおりです(日振協会調査2008年度)。詳しい内容については、以下のホームページをご覧ください。ここでは簡単なデータのみ記すにとどめます。
参照:日本語教育振興協会HP

日振協加盟校は398校(ただし調査に回答したのは370校)
学習者数    34,937人
教員数      5,567人
卒業後の進路  進学72.2%

日本語学校は当初はバラバラに活動をしていましたが、1997年日振協の呼びかけで、「第一回日本語教育セミナー」を実施しました。箱根強羅に集結し、 夜を徹しての議論。せっかく温泉地まで出かけたというのに、気がついたら温泉に浸かることもなく夜が明けてしまったという白熱ぶりでした。

・日本語学校は21世紀を前にして、どうあるべきなのか。
・留学生受け入れを円滑に行なうには、いかなる方面の整備が必要なのか。
・日本語学校全体の教育の質の向上を図るには、どうしたらよいのか。

こうして「基礎日本語能力研究プロジェクト」「実践研究プロジェクト」などさまざまなプロジェクトが始まり、十数年経った今も形を変え、テーマを変え、 ますます盛んに行なわれています。今や日本のアチコチで日本語学校教師によるワークショップや研究発表が行なわれ、大学での日本語教育と肩を並べるまでの 教育の質を保つに至りました(実は、教育実践という意味では、日本語学校のほうが質的に高いと、自負しているのですが・・・・・・)。

日本語教師達の実態

では、日本語学校で働く日本語教師達は順風満帆なのでしょうか。ちょっと以下の数字を見ていただきたいと思います(『月刊日本語2008年3月号』※最新のアンケート調査結果は『月刊日本語2009年9月号』に掲載予定)。

常勤月給(手取り)  平均21.1万円
非常勤総収入(手取り)  平均17万円

大学を出、中には大学院を修了した教師も大勢働いています(イーストウエスト日本語学校の場合、4年制卒=58%、大学院卒42%となっています)。し かし、上記のような収入しか得られず、また1時間の準備のために同じだけの時間、あるいはそれ以上の時間が必要な仕事なのです。そのため、「日本語教師と いう仕事は大好きだけれど、どうしても生活のために辞めざるをえない」と、この業界を去っていく男性教師も少なくありません。因みに、男性教師の占める割 合は、15.6%です。

そんな状況にも関わらず、日本語教師は転職したことを良かったと感じ、ずっと続けていきたいと思っているのです。

転職してよかったと思いますか。
はい=       78.3%
どちらとも言えない=20.2%
いいえ=       1.6%

10年後、あなたは日本語教師を続けていますか。
はい=       77.3%
いいえ=      22.7%

日本語教師・仕事の魅力

では、日本語教師という仕事の魅力は何でしょうか。以下の4点をあげたいと思います。

・学習者が外国人であることから、常に異文化コミュニケーションの中で仕事をすることができこと。
・教えることの何倍も「学ぶ」ことがある。つまり、教えることで自らが成長することができること。
・主体的に関わることができ、実に創造的な仕事であること。
・母語である日本語を客観的に捉えることができること。

外国人に日本語を教えるという仕事は、実に大切な仕事だと思います。日本語を通して日本の文化を知り、日本人のモノの見方を学び、そしてひいては日本の 理解者になっていくであろう外国人の「入り口」にいる日本語教師の待遇が、こんな状況でよいのでしょうか。「やりがいがあるから、これでいいんです」「楽 しい仕事だから、少々待遇が悪くても・・・・・・」こんな気持ちで私自身もこれまで嬉々として仕事をやってきたのですが、最近ふと「本当にこれで良かった のだろうか?」「果たしてこのままで良いのだろうか?」と深く考えるようになりました。

より進みゆく「多文化共生社会」に対して、いや迫り来る「移民社会」に向けて、今のような個々の教師の「やりがい・善意・やる気」などに支えられてやっ ている日本語教育でよいのでしょうか。今、日本語教師自身、日本語学校経営者、政治家、そして一般の方々も交えて本音で議論すべき時が来たように思いま す。

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