「今の仕事が大好き!だから、日本が大好き!」というキムさん

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金英順さん<イーストウエスト日本語学校で>

日本語教師にとって嬉しいことの1つが「卒業生の活躍」です。特にここ数年は、大学や専門学校を卒業後、日本で就職する留学生が急増しています。また、日本語学校から直接就職という人も増えてきています。
今日は、そうした「日本で仕事を見つけ、羽ばたいている卒業生」の中から、東放学園で20年近く仕事をしている金英順(キム ヨンスン)さんをご紹介したいと思います。
キムさんは、1990年3月にイーストウエスト日本語学校を卒業し、2年ほど貿易会社で勤務した後、東放学園で働き始めました。東放での仕事に魅力を感じ、今でも颯爽と動き回っているキャリア・ウーマンです。

【嶋田1】キムさんの日本での仕事人生は20年以上になりますね。

【キム1】私も最初からそう考えていたわけじゃないんです。1990年当時、日本でこういう形で働いている外国人はほとんどいなかったんですよ。私も、ここまで仕事をするとは思っていませんでした。

【嶋田2】でも、最近では留学生を採用する企業が増えてきましたよね。

【キム2】私が始めた頃と比べると、仕事をする環境がよくなって、それに広がっている点、チャンスも多くなりました。

【嶋田3】留学生へのアドバイスをひと言。

【キム3】日本語が一番大切です。TV、コンサート、舞台の仕事、どれを取っても大切なのは仲間とコミュニケーションをとること、だから日本語の能力が大切なんです。会社に入る時だって、大切なのは面接。企業では周りの人とコミュニケーションができるかどうかを重要視しています。二番目に大切なのが、やる気・目的意識です。年齢が少しぐらい上でも、日本に来た目的、そこで働いて何をしたいかという目的がはっきり言えることが大切ですよね。

【嶋田4】これまでで、キムさんの心に特に残っている体験、エピソードを一つ。

二人で楽しく語り合い

【キム4】20年前って、差別はなかったですが、仕事の環境が整っていなかったので・・・。つまり、韓国では、女の人が日本の企業で働いて、日本の会社の広報をするなんて信じられなかったんです。「えっ?どうして韓国人が、それも女性が、日本の会社のことでビジネスをしに、韓国に出張するの?」という感じでしたねえ~~~。働きにくかったですよ。でも、今は全く違います。日本語以外に、もう一つの言葉、母語が話せる人ということで、日本人以上に評価されることもよくあります。外国人であることが、逆に強みになっているんです。実際に、外国人が日本社会で働くことのメリットとして、長く日本に住んでいることで、自分の国との違いがよく見えてくる。外から見るからこそ自分の国がよりはっきり見えてくる。そうすると、どんどん新しいことにもチャレンジできるんです。つまり、韓国にそのままいて仕事をしていたら気づかなかったこと、見えなかったことがいろいろ分かるってことですかね。

【嶋田5】もう少しそのあたりを具体的に・・・。

【キム5】例えば、エンターテイメントは韓国のほうが進んでいます、ビジネス的な面では。もちろん技術的には日本のほうが進んでいますが。だから、両方を見て、「韓国のビジネスのやり方+日本の技術」ということで新しいことを考える。そして、それをアジアのいろいろな国で展開していくことができるわけです。

【嶋田6】ビジネス面での日本の問題点は何でしょう?

【キム6】日本のビジネス戦略は、韓国に負けていると思います。スピードが遅いんです。積み上げて、積み上げて、時間をかけてやっていく。もちろんそういうことが必要な仕事もあるでしょうが、そうでないものでも、スピードがない。確認、確認、というスタイルですよね。

【嶋田7】日本人の仕事のスタイル、あるいは考え方を少し変えていく必要があるんでしょうね。

【キム7】ぱっと判断しない、できない人が多いように思います。答えを待っている感じを受けます。もっと自由に発想ができて、自由に判断したりできるように、システムを変える必要があると思います。政策も遅れている感じがします。それに、何か、せっかくある「日本の魅力」もちゃんと世界に伝えられていない気がします。

【嶋田8】学校教育で何か感じることがありますか。

【キム8】たとえば日本の学校では、団体生活をあまりに強調しすぎていると思います。みんな一緒という感じですよね。これではよいものが出てこない。先生はやりやすいでしょうけど。もっと発想、意見がどんどん吐き出せるようにしないと。そうしないと、コミュニケーション力も育たないと思います。

【嶋田9】そうしたことは、今回の地震・原発事故などにも影響しているんでしょうか。

【キム9】韓国ならもっと吐き出せる環境だと思います。もっと早いうちに吐き出したほうがよかった。今回の事故で、日本では押さえて、押さえて、やっと・・・というのがよくなかった。問題がなかなか見えてこなかった。一つ一つ出てくるので、「何がこのあと出てくるのか。十年かかるのか?」と見えてこないのが問題だったと思います。

【嶋田10】日本人は、いろいろなことをもう少し見詰め直す必要がありますね。

【キム10】今回は、大変な状況で言葉もありませんが、そういう意味では人生観も含めて、見方を変える良いチャンスだと思います。あと二十年、三十年後にすごい結果が出てくるんじゃないですか。日本はいっぱい魅力を持っている国なんですから。

【嶋田11】なぜ20年以上も日本で働いているのですか。この先も?

【キム11】実は、最初から日本が好きで、日本で長く働こうと思っていたわけではありません。日本で働き始めて、日本人の優しさに気づき、また自分の可能性を広げるチャンスをたくさんもらいました。今では、日本に対して外国という感じはありません。韓国で働いたこともありませんし、ここが私が快適に仕事ができる「場」なんです。今の仕事が本当に好きなんです。これまでに何度か「もう仕事をやめて国に帰りたい」と思ったことはありますが、今は、この仕事が大好きです。だから日本も大好きなんです。

【嶋田12】これまで仕事をしていく上で、特に大切にしてきたことは?

【キム12】仲間を大切にしたいと思ってやってきました。出会った人を大切にすること。だから何かあったら、仲間に質問したり、アドバイスを求めたり・・・・・・。日本人は親切だからいろいろ教えてくれるんです。

【嶋田13】最後に、日本で働きたいと思っている外国の人に向けてアドバイスをお願いします。

【キム13】日本で働くためには、やっぱり日本語の勉強が大切です。たくさんの人とコミュニケーションしてください。お互いに刺激しあって、考え方を分かり合って、自分も変わっていって・・・。こうした経験は、将来どこで働こうが、大きな貴重な財産になります。それは私の経験からもはっきり言うことができます。もっともっといろいろな国の人々が日本に来てほしいですね!!

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