ポートランドで見たこと・感じたこと

日本庭園

日本庭園

8月6日・7日に、オレゴンのポートランド州立大学でOPI国際シンポジウムがありました。「OPIとオーセンティシティー」をテーマとして、2つの基調講演、3つのパネル、OPIファミリアライゼーション、リフレッシャーワークショップ、そして10件の口頭発表がありました。日本語使用者の多様化によって日本語の変化が加速する中、「Japaneses」と複数形で日本語を捉え、常にオーセンティシティーを考えながら、Proficiency-based Approachを推し進めていくことの大切さを改めて感じた大会でした。大会報告は、別の機会に譲ることとし、オレゴン州の州都ポートランドで見たこと・感じたことについて簡単に述べたいと思います。

 ■なんという治安の良さ!?

到着早々行ったスーパーで意外な光景を目にしました。レジで中年女性がショッピングワゴンを1メートル近く先に置いたまま、支払いを開始。ひと言ふた言係りの人と話したかと思うと、ワゴンの所に行って、ハンドバックからお財布を・・・・・。そのハンドバックは口がぱっくりと開き、中が丸見えです。「どうぞ盗ってください」と言わんばかりの顔でワゴンに乗っかっているのです。「これがアメリカ?」と、私はびっくりしました。なんと平和な、のんびりした買い物風景なのでしょう。

■消費税ゼロ、市中心部の市電無料とは!

大学近くのホテルから街中へ・・・と市電に乗ると、なんと運賃はただ。ある範囲内は、どこへ行くにも無料だというのです。その上、消費税ゼロとあっては、国境を越えてバンクーバーからも買い物客が来るはずです。消費税5%から10%にすべきか否かを真剣に考えている日本人にとっては、大いに関心のあるところ。私は、早速ポートランド市民に聞いてみました。「消費税ゼロというのは素晴らしいけれど、どこかに歪は起きていませんか」、即座に「それが困ったことに教育なのよ」という答えが返ってきました。

チケットの自販機

チケットの自販機

■電車の切符もカードで!

市電を少し先まで行くと、今度は有料地域となりました。でも、チケットを買おうとして困ってしまいました。その停留所には現金で買えるところがないのです。「CARDS ONLY」のサインが目立ちます。カードを使うことが大嫌いな私は、大弱り。どこにでも現金を持ち歩きたい習性はそろそろやめて、カードをフル活用すべき時が来たのかもしれません。

■自転車抱えて電車に乗り込む若者達

電車の中の自転車

電車の中の自転車

市電の中では、若者達が自転車をそのまま抱えて座っている光景に出会いました。見れば、あちこちで自転車が「乗客」として乗っているではありませんか。隅に立てかけられていたり、写真のように「ご主人様」の隣りに、まさに「乗客」として立っていたり・・・・・・。さまざまな「姿」を見かけました。これは、日本では見られない、のどかなポートランドの光景です。撮影の許可を若者に求めると、「どうぞ、どうぞ! 記念に僕たちと一緒に撮ったらどうですか」となんともフレンドリーな対応でした。こうした光景が生まれるのも、ポートランドが「自転車にやさしい街」だからこそ、日本社会が見習うべき点は、あちこちに転がっていました。

■みごとな日本庭園

数時間のフリータイムを見つけて、日本庭園に出かけました。「なんでオレゴンまで来て、日本庭園に出かける必要があるの?」という心の中の囁きを無視し、「この西海岸で、どのように日本が表現されているか見てみたい」と出掛けて行ったのです。五重塔、石庭、茶室、四季折々を楽しめるさまざまな花木、「日本の自然」がみごとな形で表現されていました。

句碑

句碑

俳句を趣味とする私は、素敵な句碑を見つけてご満悦。そこにはこう記してありました。

「ここにきて日本の春日照る如し」(秋桜子)

Here I saw the same soft spring as in Japan.

ガイドさんの話によると、この庭園は1967年にMr.Tono(戸野琢磨)、日本国外に300ある日本庭園の中で1位に選ばれたのだそうです。日本から遠く離れたポートランドに、大切に、心を込めて「日本」を息づかせてくれていることに感謝。それと同時に、国際交流基金などが、こうした「海外の中の『日本』」づくりにもっと力を注ぎ、多様な文化事業・交流事業を行うことで、日本をもっともっと理解してもらえるだろうと改めて思いました。

熱弁を振るうガイドさん

熱弁を振るうガイドさん

■3.11後の日本を憂えるアメリカ人

ガイドさんの説明に耳を傾けながら、眼下に広がるポートランドの町を眺めていると、一人のアメリカ人が話しかけてきました。3.11以後の日本を案じ、日本の少しでも早い復興を願う彼女は、「今の日本の現状」を知ることを強く望んでいました。それは、震災の半年前に仕事で1ヶ月仙台に滞在し、東北地方のさまざまな場所を日本人と一緒に回った彼女には、「日本の被災」はとても身近なものだったのです。最後に彼女は、「テレビの報道では、まだまだひどいことばかり言っています。でも、こうして皆さんがポートランドにシンポジウムで来ているってことは、日本社会は大丈夫なんですよね。元気になったんですよね」とにっこり笑いながら、語ってくれました。

石庭を見下ろす

石庭を見下ろす

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