留学生の想いを言葉に、言葉を心に〜43年目のスピーチコンテスト

「留学生の想いを言葉に、言葉を心に」をテーマにした「留学生による日本語スピーチコンテスト」が12月13日に早稲田大学で開催されました。今でこそ アチコチで留学生のスピーチコンテストが行われていますが、40年以上前から大学生の手で企画・運営されてきた団体があったことに驚きを覚えました。

コンテストを実施したのは「早稲田大学国際学生友好会」、その設立目的は「早稲田大学及び近隣諸学校に在籍する留学生・就学生との交流」であり、何と今年で創立52年目を迎える団体だったのです。

最優秀賞のリンさん

そして、もっと驚いたことは「スピーチコンテストを主催する日本人学生と出場する留学生とのやり取り」でした。このコンテストでは、まず応募者に大学生 が面接をします。時間が限られている以上、ある程度の人数に絞らなくてはなりません。日本語の力というより、伝えたいメッセージは何か、どれだけ意欲的に 取り組もうとしているか、といった観点でインタビューをし、今年は8人の出場者が決定しました。

出場者が決まると、それぞれの留学生を中心にして日本人学生は班を作ります。それから本番を迎えるまでの1ヶ月半、毎週何回も会って話し合いをし、みん なで1つのスピーチに関わり、ワイワイ言いながら少しずつ完成度を高めていくのです。これは「アドバイザー制度」と呼ばれるものですが、この制度について プログラムでは次のように説明されています。

【これは、出場者1人につき10人程度の会員がグループを作り、担当アドバイザーとして出場者のスピーチ作りをバックアップするものです。当スピーチコ ンテストは、日本語能力の優劣よりも、出場者が伝えたい「想い」「主張」を重視しています。各アドバイザーは、出場者の日本語能力をフォローし、より観客 の方々へその「想い」を深く伝えるために、共にスピーチを練り上げていきます。当日出場者が紡ぎだすその言葉は、出場者1人の「想い」だけではなく、本番 までサポートした班員の「想い」も載せてスピーチしています。】

最優秀賞を獲得した「リンさん」をサポートした大学生たちは、こんなコメントを寄せていました。

○ スピーチお疲れ様! リンちゃんがいつも一生懸命がんばってた姿が印象に残ってます! 会う度に日本語上手くなってるなと感じました! リンと作業できてよかったよ。

○ スピーチの目のつけ所がおもしろい! と思ってました。ミートを重ねるごとにどんどん完成していくのが嬉しかったよ。本番も笑顔で頑張って!

○ リンちゃんがスピコンを頑張っているのをみて「あたしも頑張らなきゃ」と思ったよ! リンちゃんファイト! 皆で頑張ろうね!

何しろ1人に与えられたスピーチの時間は10分間、この長さのスピーチは日本人でもなかなか大変です。私は5人の審査員の1人として参加しましたが、こ のスピーチコンテストの評価基準の独自性に感心しました。評価項目は、「態度」40%、「内容」と「テーマ・言語」が共に25%、そして、「発音」10% となっていたのです。プログラムでは審査基準についてこう説明されていました。

【私たちのスピーチコンテストでは、日本語能力を重視するのではなく、スピーチの内容や出場留学生の努力を評価したいという考えから、態度や内容の配点を高くした審査基準に決定しました。】

優秀賞のヘリさん

8つのスピーチは流石に1ヶ月半かけて周到に準備されたものだけあって、優劣つけがたい素晴らしいスピーチばかりでした。その中で最優秀賞を手にしたの は、台湾のリン・シーツェンさんでした。テーマは「日本での買い物と私〜ショッキング・ショッピング」、タイトルの付け方もなかなかインパクトがありま す。

リンさんは、日本人の店員のサービスの良さ、ユーザーへの優しさなどに感心しながらも、自分の買い物体験を通してその中に潜む日本社会の問題点をみごと に浮き彫りにしていきました。また、日本で発見した「面白い品物」にも言及し、それがなぜ次々に出てくるのかについても話してくれました。

私は日本で面白い品物をたくさん発見しました。たとえば、東急ハンズの中にある「プチプチ」と「ぺりぺり」と言う面白いおもちゃです。そのおもちゃはボ タンを押すことと紙を裂くことを何回も体験することが出来ます。つまり、それは暇つぶしのための物です。他にも、人の声で動く花や植物もあります。それら を見て、私はよく考えます。日本はどうして、面白い商品を作り、それに不思議な機能を与えるのでしょうか? 実際に日本で数ヶ月生活してみて、私はだんだ ん分かってきました。たぶんそれは日本人が相手の気持ちを第一に考えられるからです。さっき話した「プチプチ」と「ぺりぺり」と言うおもちゃは側に携帯す ることができるし、いろいろな音も出せます。それから、人の声で動く植物は独身族にとって、家に1人でいる淋しさを解消してくれる仲間です。これらの商品 は意外に人々の心をつかみます。役に立ちそうもない商品とはいえ、実際には消費者だけではなく企業のビジネスチャンスもひろがる面白い商品でしょう! 私 は日本の物にたいへん感心しました。

観客賞のダニエルさんを囲んで

優秀賞になったのは、日本語学校で学ぶジョ・ヘリさんという韓国から来た留学生です。韓国で大はやりの「整形手術」を思い切って取り上げました。自国の現状を率直に話し、そこから外見至上主義への疑問、さらにはユーモアを交えて、次のように思いを語りました。

今、この状態のまま続けていくと整形の結果によってどんなことが起こるかは決まっているのではないでしょうか。あちらこちら、どこにいっても似たりよっ たりな個性のない顔で、逆にお互いにあきてしまう社会になると思います。これこそ整形ブームが結局到達する世の中になるのではないかと思います。

ヘリさんが取り上げたのは外見のことでしたが、これは「人の考え方」にも通じるものであり、だからこそ1人ひとりが自分の考えをしっかり持つことの重要性、「さまざまな考え方」が共存する社会が求められているのだと思いながら、私はスピーチに耳を傾けていました。

もう1つ観客が選ぶ「観客賞」がありますが、それに選ばれたのはドイツ人のダニエル・石川さん。彼は「KYS国家日本」というタイトルで、日本社会は 「KYS=空気を読みすぎ」だと問題点を指摘しました。そして、「KYS日本」を反対から読んで「SKY日本」、つまり「すごく良い空気の日本」に変化で きれば、新しい風が吹いてくるのではないかと会場に語りかけ、スピーチを締めくくりました。

終わってからは、オープンスペースで交流会が催されました。会場にはそれぞれの班が作った「応援パネル」が所狭しと並んでおり、その前に立つ出場者を囲 んで、「おしゃべりの輪」が次々に生まれていきました。留学生をサポートしてきた大学生、近隣の商店街の方々、ボランティアの日本人の方々、そして審査員 の先生方……。

幹事長の大学3年生の鈴木鷹彬さんは、次のように語ってくれました。

私たちWICは、日本へやって来た留学生といっしょに活動しています。このスピーチコンテストのほかには、日本人の家に留学生が泊まって交流をする ショートホームステイ(SHS)、稲門祭の屋台村で世界各国の料理を作って販売したりもしますし、春と夏には一緒に旅行を企画したりと、いろんな形で国際 交流をしています。

こんな身近な、肩の力を抜いた「留学生と日本人大学生との交流」が日本のアチコチで始まることで、日本社会も変わってくるのではないでしょうか。最後に鈴木さんの「挨拶文」の一部を引用しておきたいと思います。

【私たちは、活動を通して数多くの留学生と出会い、彼らの想いの数々に触れてきました。その想いに耳を傾けること、相手の言葉に向き合うことが国際交 流、ひいては人間交流において重要であり、これからも変わらずに続けていかなければならないことだと思います。また、想いは言葉にしなければ相手に伝わり ません。想いを言葉に変えるのは非常に大変なことですが、それを乗り越えた先に真の国際交流があるのではないでしょうか。】

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