今年も恒例のイーストウエスト日本語学校スピーチコンテストが9月2日に開かれました。場所は中野ゼロホール、例年通り、午前クラスと午後クラスの2部に分かれての実施です。夏休み前から、熱心に練習をしてコンテスト当日を迎えました。しかし、中には体調を崩し、ぎりぎりになっての練習開始となった学生もいました。みなそれぞれ自分のペースに合わせて、先生方のサポートの下、本番に臨みました。受賞作品は、「留学生の声」に載っていますので、そちらをご覧ください。ここでは、全体の講評と、幾つかのスピーチを取り上げることにします。
■スピーチコンテスト全体
どれも自分自身の実体験をもとに、考えたこと・感じたことを語ったものであり、オリジナリティ溢れるものでした。またそこから明確なメッセージが伝わってくるものが多く、「異国で、日本語を学ぶことの意義」が窺えました。
このコンテストでは、スピーチの前に必ずクラスメイトによる「応援」がありますが、それがまた、個性豊かな素晴らしいものばかり! まさにクラスの結束が強く感じられる瞬間でした。どれも甲乙つけがたい良いスピーチでしたが、紙面の都合上すべてをご紹介することはできません。そこで、エピソードを交えながら、3つのスピーチの一部を紹介したいと思います。
■スピーチ紹介
◆日本語学習歴2ヶ月で見事なスピーチを! 【李恩浄(イ ウンジョン)さん(韓国・女性)】
ウンジョンさんは、7月から日本語の勉強を始め、まだ2ヶ月しか経っていない初級クラスの留学生です。でも、彼女のスピーチは、堂々として、ジェスチャーもたっぷり交えてのすばらしいものでした。2018年冬季オリンピック開催が決まった平昌(ピョンチャン)について、自分の知っている日本語の語彙・文型を使って、あとは電子辞書で何度も何度も言葉を捜しながら、スピーチを考えたそうです。
「ピョンチャンの冬のオリンピックは2010年と2014年にも立候補をしましたが、えらばれませんでした。しかし、あきらめないで、3回挑戦した結果、2018年に冬のオリンピックができることになりました」と、留学生活を諦めないで頑張ろうというメッセージも入れ込んで紹介をしてくれました。
さらに、「ピョンチャンは山に囲まれていますから、選手たちのプレーはスリルがあって面白いでしょう。新しい技術と美しい自然を持っているピョンチャンには一番新しい世界的な競技場もあります。だから今までで一番すばらしいオリンピックができると思います。
皆さん、2018年にぜひピョンチャンで会いましょう」という呼びかけで終わったスピーチは、多くの聴衆の心を奪っていました。
◆「悪」という漢字が日本留学のきっかけに!【ミハイリチェンコ マルガリータさん(ウクライナ・女性)】
2位になったマルガリータさんのスピーチは、「留学生の声」でご覧ください。彼女は、「時間がなくて、もっと「漢字と私との出会い」について話したかったんです」と、終わってから私に気持ちを伝えてくれました。
マルガリータさんは、ある時友達から借りた漫画の中の漢字が気になってしかたがありませんでした。漫画はもちろん日本語ではなくロシア語で書かれていましたが、主人公が着ていたTシャツの背中には、「悪」という字が書いてあったのです。「一体どういう意味だろう?」と彼女は早速本屋に行って辞書を買いましたが、今度は「どうやってこの辞書を使えばいいんだろう?」と漢字だらけの日本語の辞書に大弱り。そこで日本語の教科書を買って勉強を始めたのです。
1人で日本語の勉強を始めたマルガリータさんは、「もっと勉強したい!」と気持ちは高まっていきましたが、ドネツクには日本語教室はありません。そこで今度は、インターネットで「そうだ、東京には日本語の学校がきっとたくさんあるだろう」と調べ始め、イーストウエスト日本語学校に辿りつきました。
コンテスト終了後のインタビューで、「私の人生を変えた漢字は『悪』ですが、この『悪』という漢字が、私の人生を『良い』方向に変えてくれました。ここで私がスピーチをしているのも、「良い」ことですね」と語ってくれました。
◆「イーストウエスト日本語学校は僕の家」は最高の贈り物! 【郝森(カク シン)さん(中国・男性)】
「イーストウエスト日本語学校は僕の家」というタイトルで、カクさんは大地震が起こった時のことをこんなふうに語ってくれました。
「イーストウエストは、本当に僕の家みたいです。3月11日に日本に大地震がありました。外国人にとって、それは本当に恐い経験でした。はじめは、みんな気にしませんでしたから、おもしろがっていました。後で、避難したときに、インターネットで知りました。この被害の大きさを知りました。先生方はいつも笑顔でやさしく話してくれました。外国の留学生ですから、本当に大変なことに遭ったときに誰がまわりにいてくれるのか。本当に自分のことを心配してくれるのか。そういう人が近くにいることは心強かったです」
そして、一度家に帰ったカクさんは、夜また友達と約束をしてイーストウエスト日本語学校にやってきました。その時先生からもらったインスタントラーメンのことは一生忘れられないと言います。
「3月11日の夜10時ごろ、私と友達は約束して学校であいました。私は先に到着しました。学校の先生方はたくさんいらっしゃいました。先生は、インスタントラーメンを1つくれました。その時の1つのインスタントラーメンは銀座の高級なすしよりおいしく、暖かく感じました。たとえ小さくても、心が入っているもの、ほんとうの愛が感じられるものはもっともっと心に響きます」
カクさんは、さらに、そんな人と人との出会いが日本を理解する人を作っていくのだと主張し、最後、「みなさん、感謝の気持ちを持って、自分の夢を実現させるまで、頑張りましょう。今から、ここから、イーストウエスト―『私たちの家』から出発して、夢を実現させましょう」とスピーチを締めくくりました。
スピーチを聞きながら、私は「ああ、日本語教師をやっていてよかった!」と改めて思いました。そして、イーストウエスト日本語学校がこれからも「留学生の通過点」ではなく、「日本の故郷」になるよう、「留学生のオアシス」になるよう、努力していきたいと思います。