「教員免許更新のための講習内容」に異議あり!

来年4月から「教員免許更新制度」が始まりますが、その更新の際に課せられる「30時間の講習内容」が4月9日、文部科学省から発表されました。私はそ もそも「30時間の一時的な講習でどれだけの学習効果があるのか」と講習実施を疑問視していましたが、その内容を見て、ただ唖然とするばかりです。

私は何も「免許更新制度」そのものに反対しているのではありません。拠って立つ理論があり、さらに意味のある講習(講習という形態が最適か否かについては議論の余地がありますが)が提示されてはじめて、是か非かを議論の俎上に乗せることができるのではないでしょうか。

30時間の講習は、12時間の必修と、18時間の選択講習に分けられますが、必修はどうやら「教育最新事情」などの知識注入型の講習が用意されているよ うです。また、選択講習に関しては、多種多様であり、その個性豊かなプログラムは、それなりに興味深い研修内容と言えます。

しかし、それが10年に一度の、しかも更新を問う講習として果たして適切なのでしょうか。10日付の読売新聞には洗足学園音楽大学が提示した「著名な指 揮者の秋山和慶教授が小学校のオーケストラを指導する様子を見せるという講習」が紹介されていました。さらに、その意図は「教師自身があこがれるような指 導を間近に見れば、刺激にもなり、良い授業につながるはず」であると説明が付け加えられていました。このプログラムそのものは良いものかもしれません。し かし、客観的に判断して、このような受け身的な内容の研修が、果たして10年経過時に実施する講習として適切なのでしょうか。

私は小中学校の教師ではありません。日本語を母語としない留学生に日本語を教える日本語教育に身を置く人間です。日本語学校には学習指導要領はなく、自 分たちで学習者に合ったシラバス・カリキュラムを作成し、日夜努力しています。土曜日・日曜日には、さまざまな機関で学内研修、公開講座、ワークショップ が開かれており、教師は時間をやりくりしては研修に参加しています。

そこでの研修の多くは、情報伝達型ではなく、「課題をどう考え、どう対処すればよいのか」といった課題達成能力を身につけるものが多く、事例に基づく参 加者間での話し合いの中で各人が「気づき」を得て現場に戻っていく、という性質のものが多く用意されています。それは、本来教育にはシナリオはないという こともさることながら、学習者の学習目的、背景、学習スタイルなど教育現場が多様性に満ちているということも1つの大きな要因となっています。

日本の初等中等教育機関の教師が必要としているのも、こういった教育実践におけるさまざまな事例にどう対処すればよいかを学ぶことではないかと思いま す。多様な学習者を前に、以前のようなトレーニング型研修ではなく「教師の成長をめざす研修」が求められています。内省しながら実践する教師が今必要とさ れているのです。「何を/どう」教えるかという教授項目・教授法への傾斜から、「なぜ自分は学習者と今、ここで対峙しているのか」といった本質的なことを 学ぶ研修こそ意味があるものと考えます。

以前「日本語学校主任教員研修」の講師を務めたことがありますが、3日間のワークショップ終了後、ある受講生がもらした次の言葉が忘れられません。

研修で私が持ってきた課題の答えは見つけられませんでした。でも、答えが出ない研修だったからこそ、意味があったんです。分かったことは、課題の存在に 気づき、誠実にその課題に向き合い、考え抜いて行動する中でしか答えに近づけないということ。この思いを大切にしてやっていこうという気持ちがドンドン沸 いてきたんです。

そこで私は、下記のような10年講習を提案したいと思います。

1.10年ごとの研修だけではなく、10年ごとにポートフォリオを提出する形態も導入する(更新時期の1年前から準備する)。

2.中間の5年目に、事例研究をもとにしたワークショップを実施する。

3.大学で用意した選択研修を興味によって選択するのではなく、さまざまな切り口で受講生同士で話し合う場のある講習とする。

4.教師自身のコミュニケーション能力をスキルアップできる、受け身でないワークショップを実施する。

5.受講した教師の「気づき」が生まれるような主体的かつ創造的なワークショップを実施する。

プロ野球から高校教師に転じた高畠導宏さん(1944−2004)をモデルにした『土曜ドラマ・フルスイング』(NHK・TV)で、主人公は「コーチとしての信念は教えないこと」と言っていました。さらに、「大きな耳、小さな口、優しい目で待つこと」の重要性を説いています。そんな教師を一人でも多く作り出すことが「教員免許更新」の本来の意味ではないでしょうか。

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