これでいいのか、日本人の伝え方

「東海道新幹線は、落雷によると思われる信号機系統のトラブルの影響によって、最大70分程度の遅れが出ています(20時50分現在)」

これを読んで、皆さんはどう思われるでしょうか。たぶん多くの方は、なんら違和感を感じることなく読み飛ばされたことでしょう。

これは、一昨日(19日)京都から東京に向かう新幹線の中で目にした電光掲示板の「お知らせ」です。私はこれを見て、「日本に住んでいる外国の人達は、一体どんな思いで読んだのだろう」と考え込んでしまいました。なぜもっと簡潔な言い方ができないのでしょうか。

お客様に失礼にならないように出来るだけ丁寧に言いたい気持ちは分かります。また、はっきり原因が言えないという事情も分かります。しかし、東海道新幹 線に乗っているお客さんにわざわざそれを言い添える必要はありませんし、1つの単語に長い連体修飾を使う必要もありません。

「現在、70分程度の遅れが出ています。落雷による信号機故障が原因と思われます。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

先ほどの「お知らせ文」より少ない字数で、しかも3つの文で表現しています。これでしたら、読み違えることもありませんし、キーワードを手掛かりに簡単 にスキャニング(情報取り)することもできます。電光掲示板にはなかった「申し訳ない」という気持ちも表現されています。

国際化とは我も我もと海外に出掛けていくことでもなければ、英語を学ぶことでもありません。多文化共生社会であることを認識し、その違いに気づき、認め合うことではないでしょうか。そういうことに日本人はまだまだ鈍感です。

留学生は、車掌さんの活舌の悪さから駅名がちゃんと聞き取れないこともあると言います。例えば、面白い例として次のようなモノがあります。

池袋 → 駅風呂
千駄ヶ谷 → 死んだかや
信濃町 → 死の町
四谷 → お通夜

「日本の人たちが思っているより、日本にはいっぱい外国人がいます。だから、もっと車内放送とか、駅のお知らせなどは分かりやすくしてほしいです」

また、初級の授業でこんな質問が飛んできたこともあります。

「先生、どうして日本では電車が疲れていますか?」
「えっ?電車が疲れている?」
「はい。毎朝電車の中のアナウンスで聞きます。『前の電車がつかれています(「つかえています」の聞き間違え)ので、お待ちください」

外国人には、ちょっとした発音の違いで、全く違った言葉に聞こえてしまうのです。そういえば、「タクシーの運転手さんに『幡ヶ谷駅』って言ったのに、 『鳩ヶ谷』に連れて行かれちゃった」と知人が言っていたことがあります。乗ったとたん眠り込んでしまったのが運のつきですが、日本人同士でさえこういうこ とが起こるのです。

これから、単純明快な伝え方をもう少し考えていきたいものだとつくづく思います。ちなみに私は日本語教師を採用する際に、教師自身の日本語運用能力に関して次のような点に気をつけています。

・簡潔・的確・平明に自分の言いたいことを表現する能力
・場や人間関係に対して適切な語彙や表現を使う能力
・相手から目的に応じた情報を聞き出す能力
・相手が伝えたいことを正しく聞き取る能力
・相手の発話に対して的確に応じて表現する能力

最近若者のコミュニケーション能力の欠如が取り沙汰されていますが、一人ひとりが自分自身の「伝える力」「伝え合う力」を真剣に振り返ってみては如何でしょうか。

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