香港で役者として活躍するアンソン・ラム(林沛濂)さん

アンソンさん(ハイアット・リージェンシーホテルで)2013.11.4

アンソンさん(ハイアット・リージェンシーホテルで)2013.11.4

十数年前にイーストウエスト日本語学校を卒業し、現在香港で演劇活動を続けるアンソンさんと、久しぶりに香港で会うことができました。どこまでも「役者としての夢を実現したい」と頑張っているアンソンさんは、今、着実に夢を自分のものにしつつあります。

■日本留学中のテレビ出演が人生を変えた!
アンソンさんが日本に留学したのは、大学院進学が目的でした。しかし、ふとした縁で「スマップ・スマップ」に出演することになった彼は、演じることの魅力を発見、そこから進路が大きく変わりました。「日本で、日本の演劇について勉強しよう」と、日本大学芸術学部に入学しました。

地道に努力を重ねていったアンソンさんは、日本語の壁も乗り越え、卒業時には、なんと演劇学科を首席で卒業したのです。さらに、大学卒業後は、幸運にもインターンとしてお世話になった東京にある演劇集団「風」の劇団員になることができました。しかし、卒業して2年経ったある日、「やっぱり自分は香港で日本の演劇をやっていきたい」と、香港に戻ることにしました。

■苦しかった帰国後の2年間は、ひたすら「自分自身の下地作り」!
帰国当初は、コンスタントに仕事があるわけでもなく、生活は大変でした。アルバイトをすれば経済的には楽になったかもしれません。しかし、彼は、「今こそ、自分を磨き続けよう」と努力し続けました。「その時期をどう乗り越えていったのか」という私の質問に彼は、次のように答えてくれました。

演劇『白夜行』のパンフレット

演劇『白夜行』のパンフレット

「信念が大事ですよね。今、演劇がやれなくても、「いつか、その時」のために、自分を訓練することだけは続ける。体を鍛えること、声の訓練、感性を磨くこと・・・。だから、ヨガをしたり、毎日歌ったり、本をたくさん読んだり、美術館に行ったり・・・。楽しみながら、いろいろなことをしていました。チャンスが来た時、それが受けられる自分になっていないと、チャンスは手に入りませんから。本は、心理学、宗教関係、コミュニケーション関係・・・いろんなジャンルの本を読みました。週に4~5冊ぐらいかな。それがみんな今役に立っています。もちろん今もその努力は続けています」

アンソンさんを囲んで2013.11.4

アンソンさんを囲んで2013.11.4

■自分自身の演劇集団「役者和戯」を設立!
経済的にも精神的にも辛い時期を経て、彼は演劇の仕事や翻訳の仕事をいろいろ手がけるようになりました。昨年は念願の「中英劇団」の職員になることができました。しかし、ここでまた彼は考え始めました。そして、「やっぱり自分のしたい表現ができる、自分自身の演劇集団を作ろう。僕は<日本の演劇>が作りたくて、演劇をやっているんだ!」と、新たな決断をしたのです。

こうして、今年4月に演劇集団「役者和戯」が誕生しました。「役者和戯」の由来について、アンソンさんは次のように説明してくれました。

「「俳優」ではなく「役者」という言葉を使いたかったんです。「役者」、つまり演劇の職人、演技に集中できることを目指しました。「和戯」というのは、広東語の「和気」と発音が一緒なんです。その意味は、平和、ハーモニーです。それは僕が演劇の世界で目指しているもの。演劇で「愛と平和を!」という思いで名付けました。僕の夢は、演劇を通して香港と日本を繋ぐこと、「役者和戯」に「和=日本」という意味も含まれているんです」

■『白夜行』を公演!
今年6月には、「后花園」主催、「役者和戯」共催で、東野圭吾の『白夜行』の公演が実現しました。この小説には大勢の人物が登場しますが、なんと3人の役者による演劇として生まれ変わりました。アンソンさんは、『白夜行』について次のように話してくれました。

「『役者和戯』初めての公演でした。作家の一番伝えたいこと、演出家が伝えたいことを一緒にして、香港社会へのメッセージにしたいと思いました。今起こっている社会問題を、ただ表面的に捉えるのではなく、もっと裏にあることも感じてほしい。表には見えない大切なものを・・・」

■これからの夢は演劇を通して「香港と日本のかけ橋」になること!
最後に、一歩一歩着実に自分のしたいこと・やるべきことを実現させているアンソンさんの夢をご紹介したいと思います。

「僕は、日本が好きで、日本に留学しました。そして、日本で演劇に出会いました。僕は、演劇を通して日本語・日本文化を広げていくことが夢なんです。香港と日本との架け橋ですね。もちろん今は、小さい、小さい演劇集団でしかありません。でも、それを積み上げていくことで、大きなメッセージになっていくと信じています。

実は、同級生はみんな安定した豊かな生活を送っています。でも、私は、今の生活がとても幸せです。観客と一緒になって舞台を作っていく、メッセージを伝えていく・・・舞台は生き物、本当に楽しい仕事です。大きく言えば、僕の夢は世界平和です。スポーツや芸術は、国と国とのいろいろな問題も乗り越える力を持っています。演劇の力は大きいと思います。先生、僕の活動を見守っていてください」

目を輝かせながら語る昔の教え子の姿に、私は目頭が熱くなりながら、彼の話に耳を傾けていました。「日本語教師になって本当に良かった!」と思えるのは、こうして日本はもちろんのこと、世界各地で活躍する卒業生との再会です。頑張れ、アンソンさん!!

来年5月には、名古屋で公演が予定されています。なお、アンソンさんの活動に関する詳しい内容は、ホームページをご覧ください。
http://www.yakushatheatre.com/

ハイアット・リージェンシー(新界)からの眺め

ハイアット・リージェンシー(新界)からの眺め

 

 

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