スピーチコンテストで知る留学生「それぞれの思い」 バイト先店長の一言、語学学習のカギ、勉強より健康……

 7月28日にイーストウエスト日本語学校でスピーチコンテストが行われました。少しでも参加の機会を多くしたいという思いから、午前クラス・午後クラスの2部制で実施しました。

 出場者はクラスごとに1名。テーマは自由で、4分以内の発表です。このコンテストの特徴として、スピーチの前に「クラスメートによる応援メッセージ」があります。スピーチコンテストというと、スピーチをする人にばかり目が向けられがちですが、聴衆として出場者を支える留学生に少しでも壇上に上がる機会を作りたいということから始まった「応援メッセージ」です。

 1、2、3位、そして特別賞の入賞者の作品(合計8編)は、これからJANJANに投稿する予定です。今回は、全体のスピーチの中から、いくつかのエピソードを拾い、日本社会で暮らす留学生たちの生活と思いをたどっていきたいと思います。

スーパーでチラシを見せながら説明する留学生


 ■バイト先の店長に感動!
 日本に来てアルバイトを始めたジョンウンさんにとって、店長は「怖い人」というイメージで、なかなか話しづらい雰囲気だったそうです。しかし、ある出来事によって、その印象がすっかり変わってしまいました。

 ある日、ジョンウンさんは仕事中にお皿を数枚割ってしまいました。「大変だ! きっと店長にすごく叱られる」とびくびくしながら、「すみません。ごめんなさい」と必死に謝りました。しかし、店長は意外な反応を示したのです。

 「大丈夫だよ。お皿は、割るためにあるんだから」。ジョンウンさんの目の前で1枚のお皿を割ってみせたのです。

 とっさのひと言、相手の気持ちを考えた行動は、たくさんの言葉やすてきな贈り物の何倍もの力があるのです。今やジョンウンさんは、いつか来る「店長とのお別れ」に今から心を痛めています。

クラスの応援にも力が入ります


 ■「アフリカの子どもたちの夢」にびっくり!
 日本の大学で勉強したいという大きな夢をもって来日したジョンナさんは、あるテレビ番組を見て、「夢」そのものについて考え始めました。その番組は、芸能人たちがお金を集めてアフリカに学校を建てる話でした。大好きなノリ弁を食べながら、何気なく見ていたジョンナさんは、芸能人とアフリカの子どもたちとのやり取りに耳をそばだてました。

 「ねえ、みんな夢は何?」という質問に対するアフリカの子どもたちの答えは、「明日はきれいな水を飲みたい」「ちゃんとしたご飯が食べたい」「学校に行きたい」「言葉を学びたい」というものでした。

 それまで「私の夢は・・・・・・」「夢の実現のために・・・・・・」などと語っていた自分に腹が立ち、努力の甘さにハッとさせられました。そして、ジョンナさんは、「もっともっと努力をしよう」と心に誓いました。最後に彼女は、こう語ってくれました。

 「夢は『見る』ためにあるのではなく、『叶える』ためにあるんです。夢に堂々と向き合う勇気を持って、その夢になりましょう! 子どもたちに、夢と現実は全く別のものだと思わせるようなことをしてはいけないと思います」

熱く語る中国の林さん


 ■語学学習のカギは、「センス」と「心の余裕」
 ホゾさんは、元気いっぱいの男子留学生です。外国語を学ぶ時に大切なのは「センスと心の余裕」と主張するホゾさんは、「心の余裕」に関するエピソードを1つ紹介してくれました。

 バイトで大切なのは挨拶です。そこで、ホゾさんも「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」という言葉がとても上手になり、すぐに口をついて出るようになりました。そんなある日のことです。

 お誕生日だったお客様にケーキを渡しながら、「お誕生日、ありがとうございます」と言ってしまったのです。それを言う前に何度も何度も頭の中で「お誕生日、おめでとうございます」と繰り返した上で発した言葉だったのですが、1日に何度も言っている「ありがとうございます」の威力のほうが強かったのでしょう。

 ホゾさんはそこで「すみません。申し訳ありません」と謝るのではなく、とっさに次のように付け加えました。「お誕生日に、うちの店にいらっしゃってくださいまして、ありがとうございます。お誕生日、おめでとうございます」と<来店のお礼>に変えてしまったのです。見事な「心の余裕」に、お客様も笑顔で応えてくれました。

 ■「健康第1」の留学生活
 4月に来日したばかりのヨンギョンさんは初めて1人暮らしを始めることに大きな期待を持って日本にやってきました。しかし、来てみると慣れない生活に淋しさが募るばかり。毎日10時間のインターネット、睡眠時間は4〜5時間、食事もパンや簡単なもので済ませていました。そうして、次第に体調が悪くなっていきました。

 ある時、「自分は何をしているんだろう?」と、はっと気づきました。それからは、規則正しい生活に変え、友だちと散歩も始めました。料理は、インターネットでレシピを探したり、韓国のお母さんに電話で作り方を習ったりしました。料理を作るようになると、友達を呼ぶ楽しさも出てきます。そして、自然に友達の輪が広がっていきました。

 こうして、ヨンギョンさんは日本語学習の成果もあがってきましたが、留学生にとっては、この「きっかけ」をつかめるかどうかが、留学生活を成功させるか否かの分かれ道になってしまうのです。ヨンギョンさんは、最後にこう締めくくりました。

 「日本へ来て1人で住んだから、国にいたときより、両親の大切さをもっとたくさん感じています。国に帰ったら、手伝ったり、いっしょに食事したり、両親といっしょにすごす時間を作りたいです。私は今、日本へ来たときより元気になりました。日本語の勉強も大切ですが、いちばん大切なことは健康です。留学生活は簡単じゃありません。寂しくて大変ですが、がんばらなければなりません」

 ■留学生活は「終点のない旅」
 旅行が大好きなチョウロンさんは、日本留学を「旅」に例えて、これまでの生活について話してくれました。最初の何ヶ月かは、憧れの日本での生活、大好きな日本語の勉強に夢中でした。しかし、3ヵ月後には旅の途中で足がだるくなってしまうように、やる気がだんだんなくなっていきました。そして、道に迷ってしまったのです。

 その後、日本語能力試験という目標をみつけ、旅で新しい目的地を見つけた時のように、また夢中で走り始めました。そして、力の限り頑張ったかいあって、合格することができたのです。チョウロンさんは日本語学習の旅について、こう語ってくれました。

 「まるで交差点で迷ったような時もありました。まっすぐ行ったほうがいいのか、右にまたは左に曲がったほうがいいのか。どちらが正しい選択なのか。もしかすると、諦めて戻ったほうがいいのかと悩んだこともあります。でも、よく考えた末に、私はもっと前に進みたいですから、今もまた頑張っているところです。進むと新しい景色が見えるに決まっています。たとえどんなに大変でも、新しい経験が積めます」

 今、彼女はしっかり前を向いて歩いています。そして、「日本語を勉強する旅」を「階段」にたとえ、こんな言葉でスピーチを締めくくりました。

 「私から見ると、日本語を勉強する旅は、大きい階段のようです。もし皆さんが上手になることが止まっていると思っても、心配することはありません。実は、止まっているのではなくて、また次の階段に上る準備をしているにすぎないのです。私は努力しなければ素晴らしい成果が得られないと思っています。だから、たとえ旅の終点が分からなくても、諦めないでください。この終点がない旅を、皆さん一緒に続けて頑張ろうではありませんか」

 夏休みに留学生たちは自分のスピーチをJANJANに投稿しようと張り切っています。まだ留学生活を始めて4ヶ月にしかならない人もいれば、1年以上日本で生活している人もいます。滞日年数、日本語学習歴、学習目的もさまざまですが、みんな日本で留学生活を始め、その中で日本を見つめ、自分自身を見つめる中で、感じたこと・思ったことを素直に表現しています。皆様、どうぞお楽しみに!

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