留学生が作った「個性豊かな新聞」

 

イーストウエスト日本語学校の上級クラスでは、12月に入って新聞作りに取り組みました。
ここで、あるクラスでの実践例をご紹介したいと思います。
出来上がった新聞は、「極東新聞」「東西新聞」「KCH新聞」「平和新聞」の4紙です。

このクラスでは、韓国、台湾、中国から来た留学生20人が学んでいます。この時期に「新聞作り」プロジェクトをスタートさせた狙いは以下のとおりです。

 ○まとまった文章を書く。
 ○新聞に相応しい硬い文章を書いてみる。
 ○書いた文章を全員で共有する。そのことでお互いに刺激を受け、さらにモチベーションを高める。

教師が注意事項としてあげたことは、「事実を書くだけではなく、必ず自分自身の意見を入れること」でした。あとは、新聞の内容も名前もすべて自由。グループ間での話し合いによって決められました。ここでの教師の役目は、ファシリテーターで、アレコレ指示をすることは全くありません。

「極東新聞」グループでは各自が興味のあるテーマを取り上げ、書いていきました。<ニート、米軍の犯罪、人気のアプリケーション、児童虐待の対策、学びに定年はない、裁判員初の死刑判決>といったタイトルが並んでいます。トピックはすべて学生が興味を持っているものですが、授業の中で取り扱ったものもあれば、自分の専門領域に近いものもあります。

「東西新聞」グループでは、一人だけが<中国の環境問題>を取り上げ、あとのメンバー三人は<アイドルグループ>について書くことにしました。韓国のアイドルグループとAKBについてです。

「KCH新聞」グループでは、一人の留学生が「<北方領土問題>を取り上げたい」と記事を書いてきました。しかし、その後グループ内での話し合いがあったのか、出来上がった新聞には<美容整形関連の記事>が載っていました。きっとグループ内で、いろいろなやり取りがあったのでしょう。

最後の「平和新聞」を作ったグループでは、非常に興味深い「対話」がありました。最初の時間に、一人の留学生Aさんがこんな発言をしたのです。

「私はイーストウエスト日本語学校に長くいて、いろんな国の人と友達になって、本当に良かったです。でも、中国と台湾の関係がどうしてもよく分からないんです。ずっとどうなっているのか知りたいと思ってるんですけど……。だから、私たちの新聞で、この問題を取り上げませんか。」

これを聞いたメンバーの一人は反対を表明しました。しかし、Aさんは諦めることなく、根気強く話し合いを続けました。その結果、満場一致で「国と国との関係」について、それぞれが個人の考えを入れた記事を書くことになりました。そして、その後もそれぞれの記事について、メンバー間で率直なやり取りがあり、「平和新聞」が生まれました。その中の一人は、次のように感想を述べてくれました。

「この新聞作りを通して学んだことは、お互いの国について、お互いについてもっと自分自身の目で見て、頭で考えると、分かり合えるということです。ふだんは、新聞やテレビなどマスコミを通して世界のことを知ります。でも、普通の人、市民の考えなどはわかりません。こうした授業を受けたからこそ知ることができました。新聞記事は、その記者の目で見た一面だけしか見えません。自分で見たり聞いたりしなければいけないと思いました。私は、日本語学校でのいろいろな話し合いを通して、どうして国と国の政治問題、ケンカが起こるのかがわかってきました。それに、ある線をわきまえれば、政治問題も平和的にしゃべれるんだとよくわかりました。」

留学生同士の対話、教師との対話、さまざまな対話によって、学びが生まれてくることを改めて感じさせられ多「新聞作り」プロジェクトでした。

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