卒業記念文集より 作品③「時計じかけのオレンジ」

                『時計じかけのオレンジ』  林之齢(台湾:女性)

新年、2011年最初に観にいった舞台、その名は『時計じかけのオレンジ』である。
大学一年の時、授業でこの映画を見せてもらった。18歳になったばかりの私はすごい衝撃を受けた。この映画と小説が伝えた世界観は今まで私が歩んできた世界と全く違った。暴力、非常識、なにより暗く残酷な物語である。映画でもいくつもの刺激的なシーンをリアルに表現していたが、当時の私はまだ受け入れなくて、怖いシーンでは思わず目をつぶってしまった。

舞台を観た時、比べることはしなかったけれど、映画と小説の内容を無意識に思い出した。しかし舞台芸術として、新たなパフォーマンスで、今まで観たことがないかっこいい舞台を作り出していた。

まず、映画とほぼ一緒の衣装とメイクは派手だし、舞台セットの大きさや場面転換も、かっこ良くて驚いたし、さらに映像に加えて芝居の進み方も良く近未来感を伝えてくれた。それから全てのシーンを丁寧に演じてくれたし、過激なシーンも忠実に表現してくれた。また、劇中音楽も実に素晴らしいと思う。全てバンドの生演奏となり、ものすごい迫力がある。「パンクオペラ」という形の舞台と聞いていたが、そこまで惹かれるとは思ってもみなかった。

主役のアレックスは小栗旬さんが演じた。最初は少し心配していたが、ちゃんとアレックスの暗い、険悪、コントロール不能、ずる賢いっていう性格を演じてくれた。さらに最後に主人公が抱いた絶望感も良く伝えてくれた。
開演前買ったプログラムは家に帰って読んだが、開演前ちゃんと読んでおいたほうが良いかもしれない。あらすじ以外にも原作者が人為的に作った特殊な言葉の解説がある。劇中にその言葉を大量に使っているので、観劇するときはかなり辛かった。そして舞台最後のシーンは原作から削除された最終章なので、この結末を用いた理由や原作から舞台へのイメージなどについて、演出家も語っている。

この舞台を観て、世界観が広がった。物語の深さと重さは、ずっと頭の中に残り、今でも頭の中が支配されている。物語からはじめ、その場で作り出したのは『時計じかけのオレンジ』の世界であり、私たちはただの観客ではなく、一緒にその世界に入った観客だと思う。

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