中国出身の保坂さん、介護福祉士に合格(能代市)

「さきがけ」の記事

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先日、「のしろ日本語学習会」(秋田県)を主宰している北川さんから、2つの新聞記事が送られてきました。それは、中国出身の保坂さんが介護福祉士に合格したことを知らせる記事でした。「さきがけ『言葉の壁克服 中国出身・能代市の保坂さん(2012.5.1)』」http://www.sakigake.jp/p/akita/topics.jsp?kc=20120501f

保坂さんは、能代に来て13年、4年前にはホームヘルパー2級の資格を取りました。その後、「もっと専門性を身につけて、能代の社会で働きたい」と、介護士に挑戦しました。相談を受けた北川さんは、「まずは日本語能力試験2級(現在のN2)を取って、それから介護士の勉強をしたら?」と、能力試験を受験することを勧めました。そして、見事N2に合格した保坂さんは、必死に介護福祉士の受験勉強に取り組んできたのです。

幸運なことに、日本語教室には介護福祉士の資格を持つボランティアの方が何人かいました。専門的なことで分からない時は、その方々に聞きながら、勉強を進めました。こうして周囲の人々の温かい協力によって手にすることができた国家資格でした。

保坂さんの快挙は、「のしろ日本語学習会」に通う中学生や高校生にも大きな影響を与えたと、北川さんは話してくれました。「私が保坂さんの話を紹介したら、今日本語を勉強している中学生・高校生の子供達の目が輝いたんですよ。そうか、こういう道もあるんだ。専門的な仕事ができるんだ。将来自分も介護福祉士になろう、って言う子が出てきたんですよ。確かに日本語を覚えるのは大変だけど、ちゃんと勉強したら、こんな資格を取って働けるんだって、希望が湧いてきたんですよね。これって、すごく大切なことだと思うんです」

北川さんの話によると、保坂さんに続いて介護士をめざしたい定住外国人配偶者は、既に教室に数人いるそうです。こうした人達の支援を続けるには、自治体の理解がもっともっと必要であること、全国で同じような思いで支援活動を続けている人達のネットワークがとても重要であること等々……、北川さんは電話を通してさまざまな思いを熱く語ってくれました。その幾つかをご紹介したいと思います。

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■子供たちに「将来の道」を示すこと
子供達が日本語をちゃんと勉強しようとしないって言うけど、それは日本語の力をつけることで、どういう道が拓けるかをしっかり示してあげていないからですよ。介護福祉士っていうのは、もちろん沢山ある道の一つだけれど、それを実際のケースとしてしっかり伝える場が大切なんです。

■自己実現を支える「読み書き」学習
地域の日本語っていうと、この程度で十分とか、会話ができれば別に読み書きなんて要らないとよく言われますけど、そうじゃありません。読み書きもできてこそ、こうした資格も取れるし、専門性を持って働くチャンスも生まれます。ただその地域社会で生活しているんじゃなくて、社会参加ができる、自己実現ができる道を少しでも広げていくために、場を作って支援することが必要です。

■「介護の日本語」ネットワーク作り
今、とっても大切だと思っているのが、ネットワークです。いろいろな所で、介護の日本語をどうやって教えたらいいのか、悩みながらやっています。私もそうです。だから、いろいろな事例を出し合って、課題を出し合って、それで協力し合っていきたいと思います。なんだかそれぞれの地域でばらばらに頑張って模索しながら支援している感じです。

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北川さんは、さらに、「ネットワークができない理由の一つに、地域の現場からの発信不足がある」と指摘しています。私は今年3月に(社)アクラス日本語教育研究所http://www.acras.jp/を立ち上げましたが、こうした地域の現場からの発信を促進できるような仕掛けも考えていきたいと思っています。

EPAによる介護・看護の日本語教育に関して活発な議論・活動が始まっています。しかし、同時に、日本で地域社会に根を下ろし、家族と一緒に生活する人達の社会参加の道を拓くためにも、介護の日本語指導がもっともっと押し進められることを願ってやみません。それが、一人ひとりの幸せに繋がり、日本社会の活性化にも繋がっていくのです。保坂さんの記事を読み、日本語教育・支援の役割について、改めて考えさせられました。

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