(2012年度なでしこ作文 最優秀賞)
「お風呂」 黄 捷琳(台湾・女性)
私は日本に来てから、色んなお風呂に入った。
最初はホームステーのお風呂だった。ホームステーの方は親の知り合いの両親で、とても教養のいい夫婦だった。
去年の9月の東京は残暑で蒸し暑かった。そのせいで外で少し歩いたらもう汗をかいてしまうほどだった。どう考えてもお風呂に入る時期ではなかった。
それにもかかわらず、ホームステーのお母さんは日本の文化を早めに体験させたいため、お風呂を入れてくれた。
私がお風呂のマナーが知らないと心配するお母さんはゼロから教えて、特にお風呂に入る前に体をキレイに洗っておかなければならないと釘を刺した。
ホームステーのお宅は立派な3階建ての割りに、お風呂場は普通のバースユニットだった。大人が入る場合、ひざを曲げ足を組まなければならないが、来日後の初めのお風呂は気持ちよかった。
12月末、焼津のホームステーに行った時、温泉にも入った。
あの日のスケジュールが充実していて、温泉に入ったら帰宅後もう一度お風呂に入る必要がなかった。その家族は長年お正月のホームステーをやっていて、毎年楽しかったので、OBは偶に顔を出して来るそうだ。今度も2人のOBが一緒にお正月を過すこととなった。
温泉から見上げる景色が美しかった。名の知らない木々が生えた山に囲まれ、風が吹く度に葉っぱが擦れ合い、その音はラリバイのように優しかった。空はやや曇っていて、灰色の染めた薄い藍色であった。
女子会のように、皆が同じ湯に集まった。一週間分の話題を話しつくそうとするように盛り上がってチャットした。学校の授業の話からOBのお仕事のことまで、定番の国際交流のトピックも幾つか出た。温泉で裸で向き合って話すことは恥かしくてできないと思ったものの、実際私は大いに楽しんだ。
実は私は国に関する話があまり好きではない。時にはそれが大変軽薄な話題だと思ってしまう。無論、初対面の外国人と会話を交わす時、国の違いが必ず話題に登るだろう。しかし、いつまで経っても国の話でしか持たないとしたら、それは相手にとって渡し個人より「外人」のアイデンティティが強いからだろう。私を知ろうとするより、簡単で話しやすい国の質問をしたと思わずにはいられない。
が、その日は少しも嫌悪感を覚えなかった。
私は年末から学生寮に引っ越した。
一人でお風呂に入る時よく深い思考に陥る。
目を閉じて心地いい静寂さに包まれ、ゆっくり息をしながら考える。
――心を開くとは何だろうか。
両人が素顔のまま話し合うこともあれば、作り笑いで会話を辛じて続けることもあるだろう。これはきっと留学生のみの課題ではないが、母語の離せない外国にいる留学生は他の人より敏感で繊細なのは言うまでもない。
しかし、まず自分の心を開かなければ悲しむことが避けられるものの、その分楽しいことも感じられなくなってしまう。他人の態度はどうであろうと、自分が納得できる答えを出さなければならない。
そう考えて、風呂の中に一人、私はふっと微笑んだ。