1年目は、長男出産直前だったNさんですが、今年は生後4カ月の三男を抱いて現れました。二人の息子達はボランティアの人と一緒に楽しそうな声を上げながら教室内を元気に走り回っています。
日本語の授業が始まると、長男と二男は、複数のボランティアの方に絵本を読んでもらったり、一緒に走り回ったりして時間を過ごしていました。まだ乳飲み子の三男は静かにソファーで眠っています。Nさんは地域のさまざまな方々の支援のもと、子供たちの笑い声や走り回る音を聞きながら熱心に日本語学習に取り組むことができるのです。いつもは人里離れ、ひたすら育児と家事に追われている彼女にとって、すてきな「親子で学べる日本語教室」でのひと時は至福の時と言えましょう。
日本語ゼロで来日したNさんには、言葉の壁がありましたが、ラッキーなことに来日直後から能代日本語学習会に通うチャンスが訪れました。出産のたびにかなりの期間中断したものの、三児の母となった今、こうしてまた週1回、学習会で日本語を仲間と一緒に勉強することができているのです。実は、この教室通いを可能にしたのは「国際運転免許取得」でした。隣家は遠く離れているという住環境において「車なし生活」ではストレスがたまる一方です。もちろん遠く離れた日本語学習会に通うことなど考えられません。まさに「国際運転免許取得」は新たな世界が開けるキーワードだったのです。そして今、小さな子どもたちにとっても日本語学習教室は、人と触れ合うことのできる大切な「出会いの場」となっています。
「子育て大変でしょう?」という私に、「いいえ、大変じゃありません。楽しいね。でも、ドキドキです。けがするか、落ちるか……。2人、元気ですから、私、いつもドキドキです。だけど、免許あるから、今はとっても楽。なかったら、今、大変ね!」と答えてくれたNさん。忙しいながら、今の5人家族の生活をエンジョイしているようです。「私、こども大きくなったら、ロシア語で通訳したい。私できることしたい」と言っているNさんの目はキラキラ輝いていました。定住外国人配偶者のための日本語教室は全国アチコチに出来てきましたが、まだまだ十分ではありません。ましてや「親子で学べる日本語教室」となると、数えるほどしかありません。外国人配偶者が乳幼児を抱えても安心して日本語を学び続けることができる環境作りが今急がれています。そして、運転免許証取得の大切さを考えると、国・自治体に次のことをお願いしたいと思います。
- 1.日本語習得の機会が得られるような配慮をすること
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外国人配偶者にとって日本語力はさまざまな意味で必要となってきます。子育てにおいて子供とのコミュニケーションを取る、保育園や学校との連絡、ご近所とのお付き合い。「どのような日本語が、どれだけ必要なのか」は人によって異なります。しかし、望めばそうした「日本語学習・支援」の場が得られるような配慮が必要です。
- 2.さまざまな形の「居場所作り」を考えること
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人は他者との関わりの中で生活をしています。外国人配偶者にとって家族以外に、「自分にとっても居場所」があることは大切なことではないでしょうか。その場作りの1つの選択肢として「日本語学習教室」「日本語サポートセンター」などさまざまなものがあります。しかし、問題はそうした存在は全国に均等にあるわけではなく、実情は地域によってかなり異なります。また、そうした情報を入手することすらできない人々も大勢いることを忘れてはなりません。
- 3.諸制度の見直しを早急に進めること
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Nさんの国際運転免許取得のことを述べましたが、彼女が国際運転免許を使えるのは1年間のみ。今度は日本の運転免許を取得しなければなりません。しかし、現在の居住地秋田県での試験実施言語としてロシア語は含まれていないため、ここでまた「日本語の壁」にぶつかってしまいます。もちろん「日本で暮らすのだから日本語で受験すればいい」という意見もあるでしょうが、定住外国人配偶者にはさまざまな事情もあります。そういう意味でも、より柔軟で多様な対応を考えてもらいたいものです。